2019年10月1日から,日本国内での買い物における消費税率が改定されます。生鮮食品など,ごく一部は8%に据え置かれるものの,ほとんどの物・サービスは8%から10%へ,2%の増税されます。
増税とともに,消費の冷え込みを防ぐ景気対策と,キャッシュレス決済の推進の両取りをめざして打ち出されている施策が「キャッシュレス・消費者還元事業」です。キャッシュレス決済の利用に応じて,国から最大で5%のポイントが付与される制度です。
多くの買い物が適用になることから使いこなしたい制度ですが,内容について把握できているでしょうか? 概要と知っておきたいことをまとめました。
制度の概要
ポータルサイト「キャッシュレス・消費者還元事業」と,2019年9月2日に経済産業省が公表した「消費者向け説明資料」に基づいて概説します。
ここは事業の説明ですので,すでに詳しくご存知の方はこちらまで!
実施期間(消費者還元期間):9か月間
2019年10月~2020年6月の9か月間です。
一般的な店舗でのポイント還元の流れ
対象店舗でキャッシュレス決済を利用することにより,キャッシュレス決済事業者(カード会社など)からポイントが付与されます(消費者向け説明資料より,他も)。
還元の適用条件をまとめると,以下のようになります。
- キャッシュレス決済事業者(カード会社など)がキャッシュレス・消費者還元事業に登録していること
- 店舗がキャッシュレス決済事業者を通して,キャッシュレス・消費者還元事業
対象店舗で対象のキャッシュレス決済をすることが還元の条件です。
上図にある通り,還元されるポイントの原資は国が補助します。国はキャッシュレス決済手段手段事業者を通して,ポイント還元する仕組みです。
なお,楽天やAmazonなどのECサイトに出店する業者も対象です。ただし,ECサイト等を経由するキャッシュレス決済はポイント還元の方法が流れが上の図とは少し異なります(後述します)。
対象店舗は拡大中
対象店舗は以下のマークを掲示します。
登録する事業者は増え続け,9月5日時点で,全国57万7000店以上が登録しています。まだ全国の事業者の一部ですので,今後も増えていく予定です。
9月上旬の時点では,どの店舗が対応するか判別が難しい状況ですが,9月下旬には対象店舗を地図上に表示するアプリが登場するようです。
ほとんどのキャッシュレス決済は対象
クレジットカード,デビットカード,電子マネー,QRコード決済など,電子的に繰り返し利用できる決済手段の利用に対して還元されます。プリペイドカードなども含まれます。
キャッシュレス決済事業者が登録していることが条件です。
キャッシュレス決済事業者にとってはまたとない事業機会ですので,どの事業者もクリアしてくると見込まれます。したがって,どのキャッシュレス決済を使っても還元は受けられると考えてよいでしょう。
還元率は5%か2%
原則として,税込価格に対して,5%または2%のポイントを付与します。
小売,飲食,サービスなどの一般の中小店舗では5%,フランチャイズ店やガソリンスタンドは2%の還元です。
店頭や,9月下旬にリリースされるアプリにて,ポイント還元率がわかるようになっているものと思います。
還元方法は4つ
還元方法として経済産業省が示しているのは以下の4つです。そのいずれかが適用されることとなります。
- ポイント付与(主に,クレジットカードやプリペイドカード,電子マネー)
決済額に応じたポイント又は前払式支払手段(チャー ジ額)を消費者に付与する方法 - 即時充当(Orgamiなど)
購買時に,即時,購買金額にポイント相当額を充当する方法 - 引落相殺(クレジットカード)
利用金額に応じた金額を口座から引き落とす際に,ポイント相当額を引き落とし金額と相殺する方法 - 口座充当(主に,デビットカード)
少なくとも一月以内の期間毎に口座にポイント相当額を付与(し,その後の決済に充当)する方法
クレジットカードでは,「ポイント付与」を採用する事業者と「引落相殺」を選択する事業者に分かれています。例をあげれば,楽天カードはポイント付与,三井住友カードは引落相殺となっています。
ポイントが付与される場合,利用対象や有効期限がどのような条件になるのかは今後の調査事項です。
還元上限額は決済手段ごとに月1.5万円のパターンが多数
キャッシュレス決済事業者ごとに規定されています。
ですが,クレジットカード,デビットカード,プリペイドカードは,概ね1か月あたり1万5000円分相当の還元を上限とする場合が多いです(5%還元の店舗で30万円分)。
1枚あたりの上限なので,複数枚を使い分ければ上限はないということになります。
電子マネーやコード決済などは,事業者によって上限が異なります。かなり複雑なので,この記事では割愛させていただきます。「現金いらず.com」などの記事が参考になります。
ただし,ECサイト等・コンビニ等では即時還元
8月20日にセブン-イレブン・ジャパンなど大手コンビニチェーンはキャッシュレスの利用時に,決済金額から2%を即時還元すると発表しました。記事では,AmazonなどのECサイト,大手スーパーなども同様の取り組みを行う計画があると触れています(日本経済新聞,8月20日)。
Amazonはポイント還元対象となる加盟店での購入時に,即時還元をする方向です(BCN+R,8月21日)。
ECサイトなど加盟店方式を取る事業者は,キャッシュレス決済の加盟店との間に立て替え払い等が発生するため,キャッシュレス決済事業者の一員として位置づけられるからです(「準B型決済事業者」とされます)。こういった事業者は,ポイント等を付与するのではなく,Origamiのように即時還元する方向で進めているとのこと。
結果として,ECサイトやコンビニ等の事業者から購入した場合は以下のようになります。
- 即時還元するECサイトやコンビニ等での購入
- キャッシュレス決済事業者(クレジットカードなど)の追加ポイント付与はなし
- ECサイト等の利用時に即時還元
- 即時還元しないECサイトやコンビニ等での購入
- キャッシュレス決済事業者(クレジットカードなど)からポイント付与
- ECサイト等には還元前の金額を支払う
利用に当たり知っておくべきことは?
それでは,利用者目線で要点を横断的に見ていきましょう。
面倒な登録は必要ない
消費者は特に何かに登録する必要はありません。
この制度のありがたいところは,既存の仕組み(例えば,楽天カード決済で1%ポイント還元,楽天ペイや楽天Edyで0.5%ポイント還元,Origamiで2%割引など)に上乗せして,ポイント還元や実質値引きなどのメリットを受けられることです。
エントリーや登録は特に必要ありません。以下を満たす店舗で,キャッシュレス決済すればよいだけです。
登録店舗かつ登録キャッシュレス決済でなければならない
繰り返すようですが,キャッシュレス・消費者還元事業でポイント還元を受けるには,以下の条件が必要です。
- キャッシュレス決済事業者(カード会社など)がキャッシュレス・消費者還元事業に登録していること
- 店舗がキャッシュレス決済事業者を通して,キャッシュレス・消費者還元事業に登録していること
前述のとおり,1.は特に問題ありませんが,2.のほうは注意が必要です。注意点としては,以下の2つ。
- キャッシュレス決済可能であるが,そもそも登録していない店舗
- 同じ店舗でも適用対象となる決済手段とならない決済手段が混在する可能性がある
キャッシュレス・消費者還元事業の対象になるのは57万7000店です(9月5日時点)。総務省統計局の資料では,消費者向けの事業者が相当数含まれるであろう「卸売業,小売業」「宿泊業,飲食サービス業」「生活関連サービス業,娯楽業」を合計すると250万事業所を超えます。もちろん,消費者向けでない事業者や,旧来の「現金のみ」店舗も含む数字ですが,キャッシュレス決済できる店舗がすべて参加しているわけではないことに注意が必要です。
また,店舗は決済事業者を通して登録するするため,例えば複数の決済手段を持つ店舗の場合,「PayPayは還元対象になる一方で,楽天ペイは還元対象にならない」といった店舗が出てくる可能性もあります。たいていの店舗は取り扱うキャッシュレス決済のすべてに対応するものと思いますが,購買時には,どの決済手段で割引が適用になるか確かめる必要が出てきそうです。
店によってポイント還元率が異なる
中小規模の店舗は5%,フランチャイズ店などは2%の還元率になります。
3%の差は大きいため,購入する前にどちらの還元率が適用されるかをきちんと知る必要があります。
現状,登録加盟店の一覧表で確認できますが,6300ページ超のPDFファイルです。規格外の量ですから,検索もほぼ不可能です。
9月下旬にはアプリがリリースされ,10月1日以降は店頭に還元率が掲示されるようなので,そういったツールを活用して判断することになるかもしれません。なお,ECサイト上でも中小店舗は5%となるため,普段からECサイト上の中小店舗を利用する人は,そのままECサイトを使い続けることができます。
また,書籍のような定価販売の商品は,5%還元の店舗で買うほうがよいといった使い方もできそうです。
増税後に購入するほうがお得になることも
増税まで「買い控え」する戦略も。
キャッシュレス・消費者還元事業は消費増税に伴う景気対策ではありますが,生鮮食品など,消費税率が8%で維持される商品を購入した場合でも,対象店舗で対象のキャッシュレス決済を行えば還元を受けられます。
また,消費税率が10%になる品目でも,5%還元される事業者で購入すれば実質的には消費税率5%の買い物とほぼ同じです。5%還元される事業者では,むしろ増税前に「買い控え」したほうが賢い使い方になる場合もあるでしょう。
還元上限額には要注意
前述の通り,キャッシュレス決済事業者ごとに還元の上限額を定めています。
決済手段の多くは還元額として1か月当たり1万5000円分相当を上限としていますので,大きな買い物をしたときなどは,月間の利用金額に要注意です。
5%還元でも30万円分ですから,普段の生活ではなかなか到達しないと思われますが,場合によっては複数の決済手段を併用する柔軟性が必要です。
5%還元の店舗を中心に積極的に使いたい
以上を踏まえると,「キャッシュレス・消費者還元事業」は,登録不要という利便性はある一方で,「どのお店がキャッシュレス・消費者還元事業に参加しているか」「参加しているならば,どのキャッシュレス決済が適用となるか」を確認する手間が増えることになります。
結局,中小店舗のキャッシュレス化を推進したいがために,規模によってポイント還元率を変動させるといった登録システムを設ける必要が出てきてしまい,かなり複雑な仕組みになってしまいました。
キャッシュレス決済金額に対して一律に還元するのであれば,これほど複雑な仕組みにする必要はなかっただろうに……。
とはいえ,全国の事業者にとってはキャッシュレス化を進め,利用者にとっては増税分を超える還元を受ける機会でもあります。なるべく5%還元の店舗を中心に,積極的に使っていきたいものですね。
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