資産運用の世界には「運用の成果」の見方が2つ存在します。その1つは、どれだけ増えたかを割合で表現する方法です。「資産が2倍になった」とか、「含み益が+150%になった」といった表現は投資の世界ではよく使われますよね。
そしてもう1つは、どれだけ増えたかの金額に注目する方法です。「資産が100万円増えた」「含み益が150万円になった」といった見方です。
どちらも正しい考え方で、この2つの間に優劣は存在しません。しかし、実際の生活において意味を持つのは「資産が何万円増えたか」というような金額のほうでしょう。
100万円が2倍になっても利益は100万円ですが、1000万円が1.5倍になれば利益は500万円です。生活費や老後資金、教育資金は「資産の◯%」として支払うのではなく、「〇〇円」という金額で考えるのですから、これは当たり前の話です。

私は資産運用を貯蓄の延長線にあるものと考えています。この考え方に基づく範囲では、運用の成果を金額ベースで考えるほうが自然ではないでしょうか。


そこでこの記事では、運用の成果を金額ベースで考えたときに、それを決める要素は何か、そしてどこに注力すべきかを説明していきます。
運用益の大きさは「運用金額」「収益率」「運用期間」で決まる





いきなり結論ですが、運用益の大きさを決める要素は、①運用金額、②収益率、③運用期間の3つです。
実際には複利の効果があるため単純な掛け算にはなりませんが、運用の成果はこの3つの値が決まれば確定する構造は変わりません。運用金額が大きいほど、実現した収益率が高いほど、運用期間が長いほど、得られる運用益は大きくなります。





まず知っておきたいのは、この3要素のうち「収益率」だけは性質が大きく異なるということです。
期待される収益率は運用のリスクと切っても切れない関係にあります。そのため、収益率の期待値を高めるにはより大きなリスクを取る必要があります。
値動きの大きい資産を選ぶ、レバレッジをかける、特定銘柄に集中投資をする⋯⋯といった方法が考えられますが、いずれもリターンの振れ幅を大きくすることと引き換えになります。
一般に、リスクをより大きく取れば収益率の期待値は高まりますが、あくまでも「平均的にはこれくらいになるだろう」という期待値が上がるだけであって、実際のリターンが期待通りになる保証はありません。





そもそも、リスクを取れば必ずリターンが得られるのであれば、それはリスクと呼べないでしょう。高いリターンを狙えるものほど、大きく下振れする可能性も高くなる。これがリスクとリターンの基本的な関係です。
また、詳しくは別の機会に譲りますが、リスクの大きい資産は年ごとのリターンの変動が大きくなるため、長期で見ると算術平均のリターンよりも、実際の資産の成長率(幾何平均のリターン)はより下方に乖離しやすくなります。リスクを大きく取りすぎると、望んだほどには資産が増えない確率が上がるのです。





つまり、収益率を高める方向の努力には限界があり、まして狙って高リターンを得ることは不可能です。
一方、「運用金額」と「運用期間」は自分の意思と努力で決定・改善できる要素です。
収入を増やす、支出を見直すといった努力によって、運用金額は大きくすることができます。できるだけ早く投資を始めてなるべく長く続けることで、運用期間を大きくすることもできます。
たとえば、毎月1万円の積立投資と、毎月5万円を積立投資を続けた場合では、将来の資産額には5倍の差が生まれます。収益率はまったく同じでも、運用金額が異なれば最終的な資産額には大きな差がつきます。
同様に、同じ金額を積み立てる場合でも、10年早く始めた人は10年遅く始めた人に対して大きなアドバンテージがあるのです。







「運用金額」と「運用期間」を確保する努力は裏切られないということです。そして重要なことは、「運用金額」と「運用期間」を十分に確保できれば、「収益率」で無理をする必要がなくなるということです。
十分に大きな金額を長期間にわたって運用すれば、平均年率数%のリターンでも運用益の絶対額は十分に大きくなります。元本1000万円を平均年率4%で運用すると、20年後には約2190万円、30年後には約3240万円、40年後には約4800万円に達します。





収益率を無理に高めようとしなくても、残りの2つの要素でカバーできる。このことは多くの個人投資家にとって心強い事実ではないでしょうか。
言い換えれば、運用の成果を大きくしたいなら、あまりに不確実な「収益率」の向上に賭けるよりも、確実にコントロールできる「運用金額」と「運用期間」に注力するほうが合理的だということです。
なるべく早く、多くの金額を運用することの意義
ここまでに説明してきたとおり、運用の成果を大きくするためにやるべきことは明快です。





繰り返しになりますが、それは「人生のなるべく早い段階で投資を始め、できるだけ多くの金額を運用に回し、途中で売却せずに持ち続けること」です。
早く始めれば「運用期間」を長く取れますし、多くの金額を投じれば「運用金額」が大きくなります。
そして途中で売却して運用をやめてしまうと、その間は「運用期間」も「運用金額」が失われてしまうので、売却をせずに持ち続けるのが適切だといえます。
この原則に基づけば、若いうちにできるだけ稼げるような選択をし、余剰資金をつくって投資に回しておくことが重要になります。もし両親や祖父母からの贈与で早い時期にまとまった資金を投資に回せれば、さらに長期運用ができるので圧倒的に有利になります。





なお、早い段階から多くの金額を運用に回すメリットは、運用上の合理性だけにとどまりません。
1つは、不確実な将来への備えになることです。いまは家計に余裕があっても、減給や失職、子育て・介護といった事情で収支の環境は大きく変わり得ます。投資に回す余裕があるうちに前倒しで進めておくことには、将来の不確実性に対する保険のような意味があります。収入が減っても焦らずに済むわけです。
もう1つは、増えたお金が人生の選択肢を広げてくれることです。十分な資産があれば、退職の時期を前倒しにする、働き方を変える、より多くのお金を使えるといった選択肢が生まれます。





このように、お金は使ってこそ意味があるだけでなく、お金がある状態そのものにも意味がありますね。


私自身は「収益率」で無理をせず、「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」に代表される全世界株式への分散投資でこれを実践しています。「株式市場全体の値動き」というリターンにつながるリスクを確保しつつ、売買が不要な資産を選ぶことで、「運用金額」と「運用期間」を最大限に活用していくという考え方です。
派手なリターンを追い求めるのではなく、自分がコントロールできる「運用金額」と「運用期間」をしっかり確保できる選択をすること。これは地味ではありますが、長い目で見たときに十分な運用の成果をより高い確率で生むことができる方法です。


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