「SBI・Vシリーズ」が新たにつくられ,米国株式インデックスファンドのラインナップが拡充されます!
2021年5月28日に,SBI証券がファンドとシリーズ商品の新設についてお知らせを出しました。
新シリーズと新ファンド2本が発表
業界最低水準の手数料&最高水準のサービスをうたう「SBI・Vシリーズ」
SBIアセットマネジメントが,6月15日をもって「SBI・Vシリーズ」を立ち上げることになりました。「V」は米国バンガード社を意味しています。バンガード社ETFを購入する投資信託です。
お知らせのなかには,SBI・Vシリーズの理念がうたわれています。それは,「『顧客中心主義』の経営理念のもと、『業界最低水準の手数料で業界最高水準のサービス』を提供する」ということ。どこかで聞いたことのあるような語感です。
これは明らかに,「業界最低水準の運用コストを,将来にわたってめざし続ける」と掲げたeMAXIS Slimシリーズを意識していますよね。
これに「業界最高水準のサービス」が加わった形ですが,それが何を意味するのかまではまだ示されていません。
VTIとVYMを買うインデックスファンドが6月に新規設定
既存の「SBI・バンガード・S&P500インデックス・ファンド」の名称を変え,「SBI・V・S&P500インデックス・ファンド」となることが発表されたばかりです。
そして今回,「SBI・V」を冠するファンドをさらに2本新規設定し,6月29日から運用されることがわかりました。新しく設定されるのは表の2本です。
名称 | 信託報酬率(税抜) | 特徴 | 販売会社 |
SBI・V・全米株式インデックス・ファンド | 0.088%(うちETF経費率0.03%) | バンガードのVTI(CRSP USトータル・マーケット・インデックスに連動)を購入するETF。 | SBI証券 |
SBI・V・米国高配当株式インデックス・ファンド | 0.118%(うちETF経費率0.06%) | バンガードのVYM(FTSE ハイディビエンド・イールド・インデックスに連動)を購入するETF。 | SBI証券 |
しかしながら,VTIを購入するSBI・V・全米株式は,S&P500を購入するSBI・V・S&P500との差別化要素が少ないです。Yahoo! FinanceでVOO(赤)とVTI(青)の長期推移を調べてみました。時期によって多少の差があるものの,概ね同じ値動きです。
対象とする顧客層が重なるため,自社のファンド間で食い合う影響がありそうです。SBIのS&P500ファンドをこれまで保有していた人にとっては,あまり評価できる新規設定ではないでしょう。
それでも,SBIアセットマネジメントは出す価値があると見ているからの決断です。SBI・Vシリーズの「三本の矢」がどこまで市場に食い込むのか。低コストインデックスファンドにおけるSBIアセットマネジメントの存在感を強めていくうえで,SBI・Vシリーズが鍵となることは間違いなさそうです。
楽天のファンドと大激突
新規設定される両ファンドには先行するライバルファンドがあります。どちらも楽天投信投資顧問が運用するファンドです。基本情報を比較してみました。
名称 | 信託報酬 | 純資産総額 | 設定日 | 特徴 | 販売会社 |
SBI・V・全米株式インデックス・ファンド | 0.088%(うちETF経費率0.03%) | 設定前 | 2021/6/29 | バンガードのVTI(CRSP USトータル・マーケット・インデックスに連動)を購入するETF。 | SBI証券 |
楽天・全米株式インデックス・ファンド | 0.150%(うちETF経費率0.03%) | 2,738.13億円 | 2017/9/29 | 楽天証券・SBI証券ほか15社 | |
SBI・V・米国高配当株式インデックス・ファンド | 0.118%(うちETF経費率0.06%) | 設定前 | 2021/6/29 | バンガードのVYM(FTSE ハイディビエンド・イールド・インデックスに連動)を購入するETF。 | SBI証券 |
楽天・米国高配当株式インデックス・ファンド | 0.180%(うちETF経費率0.06%) | 47.57億円 | 2018/1/10 | 楽天証券・SBI証券ほか7社 |
これまで,楽天・全米株式(楽天VTI)と楽天・米国高配当株式(楽天VYM)には同じ指数に連動するファンドがありませんでした。つまり,正面から衝突するライバルはいなかったということです。
楽天VTIに至っては,S&P500に連動するeMAXIS Slim米国株式(S&P500)やSBI・V・S&P500という信託報酬が半額に近いファンドがありながらも,最近は信託報酬を引き下げる動きはありませんでした。
ここにSBIアセットマネジメントが同じ投資スタイルで,かつ信託報酬が安い対抗商品を思いっきりぶつけてきました。先ほどはやや否定的なことを書きましたが,この点については大いに評価しています。
中身が同じであれば,信託報酬が低いファンドのほうが長期的にはより大きなリターンが期待できます。新規ファンドゆえに,最初は様子を見る人も多いと思いますが,ある程度資金が入ってくれば,楽天VTIからSBI・V・全米株式に積み立てファンドを変更する人が続々と出てくるのではないでしょうか。
数年と経たずに,SBI・V・全米株式は多くの資金を集めるのではないかと直観的には思います。
◆インデックス投資ブロガーのナザールさんが,楽天VTIとSBI・V・全米株式の信託報酬の差がどのように効いてくるかを分析しています。
詳しくは記事を読んでいただければと思いますが,毎月1万円を20年間積み立てた場合で4万円ほどの差になっています。仮に5万円積み立てたとしたら20万円もの差になりますね。新たに積み立てるとしたら,SBI・V・全米株式を検討してはいかがでしょうか。
楽天はひとまず様子見するのではないか
さて,真っ向から対立するライバルが登場した楽天VTI・楽天VYMですが,気になるのはスペック差となっている信託報酬にメスを入れるかどうかです。
私としては,当面は様子見するのではないか……と推測しています。楽天VTIがeMAXIS SlimやSBI・VのS&P500インデックスファンドの信託報酬に追随しなかったという前例のほか,以下の理由があります。
- 楽天VTIを売却して,SBI・V・全米株式に乗り換える人は少ない
○課税口座で課税されたり,NISA等の非課税投資期間を犠牲にしたりしてまで乗り換えるのはデメリットのほうが大きい
○コストにとくに敏感な層はの一部はすでにeMAXIS SlimやSBI・Vに移行済みである - 純資産総額2700億円超のファンドから得られる信託報酬を急減させるような判断は難しい
○仮にSBIと同水準に下げた場合,現在の収益を得るために純資産総額4000億円超まで増やす必要があり,そこまでの期間も考えると選びにくい - 販売関連で差がある
○楽天証券での楽天カード積み立てによるポイント還元があることや,販売会社がより多いなどの差がある
○したがって今後もある程度の資金流入が期待できる
信託報酬は一度下げたら上げるのは難しく,まずは慎重な判断をするのではないかと思います。ただ,コスト面での競争に参加する意欲を見せなければ,長期的には投資家は離れていくでしょう。
今後どのような判断を下していくのか,対抗商品が登場した楽天投信投資顧問の今後の動きが気になります。
SBI・Vシリーズの発売は,よりよい投資環境がつくられるきっかけになるのではないかと強く期待しています。
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