EDINETへの届出によると、日興アセットマネジメントから異次元の低コストとなる新たなファンド「Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)」が登場します。
このファンドは同社のファンドシリーズ「Tracers」の1つで、日本を含む全世界株式が投資対象です。MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(ACWI、税引後配当込み、円換算)に連動する運用をめざします。
ファンド名には「ワールド」がないですが、MSCI ACWIに連動する全世界株式インデックスファンドです。
信託報酬は税抜0.0525%!
設定が発表されるやいなや、投信ブロガーなどの間では話題になっています。それは、信託報酬が競合するファンドよりも圧倒的に安いから。
対象指数が同じ全世界株式インデックスファンドで信託報酬が最も安いのは、「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」と「たわらノーロード全世界株式」で、信託報酬は税抜0.103%です。
新しく設定される「Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)」はその約半分の水準なんですよ。
しかしこの圧倒的な安さには理由があるようです。たとえば、運用コストには「信託報酬」と「信託報酬以外のコスト」がありますが、他社は信託報酬に含めているコストを信託報酬に含めず、「信託報酬以外のコスト」として表示しているところがあるとのこと。
ITmediaの報道によれば、競合する三菱UFJ国際投信に取材した記事で、以下のような解説がなされていました(引用は以下の記事から)。
Tracersオールカントリーは、「指数の標章使用料」が信託報酬に含まれず、また年率0.1%を上限とした額をその他手数料から徴収できると、有価証券届出書に記載している。指数の標章使用料、つまり連動する指数であるMSCI ACWIの使用料は各社とも非公開だが、信託報酬がこれだけ下がる中では小さな額ではない。
「弊社ファンドでは、指数の標章使用料は信託報酬率に含めており、信託報酬水準が公正な比較対象とならないため、現時点では追随しない方針」(三菱UFJ国際投信)
「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」を運用する三菱UFJ国際投信は「たわらノーロード全世界株式」などには信託報酬で徹底対抗してきましたが、このような理由で今回の「Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)」の運用開始に合わせて信託報酬を引き下げることはないようです。
補足しておくと、たとえばS&P500はS&Pダウ・ジョーンズ・インデックス社が、MSCI ACWIはMSCI社が算定する指数で、インデックスファンドがそれを利用するには使用料を支払う必要があります。この使用料は信託報酬のなかでも負担の大きい要素だと聞くので、「Tracers」がそれを信託報酬から除外していることは、三菱UFJ国際投信としては看過できないようです。
ほかにも、日興アセットマネジメントの他のファンドでは信託報酬に算入されている、運用報告書の作成費用などが「Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)」では信託報酬に含められていないことが、投信ブロガーのたわら男爵さんの記事にまとめられています。
重要なことは信託報酬の水準ではなく、信託報酬以外のコストも含めたコストの総額です。信託報酬からいろいろなものを除外して、見せかけで信託報酬を下げても投資家にとっての利点はありません。
以前に、三菱UFJ国際投信の代田氏の話を聞く機会があり、その際には信託報酬に入れているもの・入れていないものが会社によってまちまちで、その点は業界基準として統一したいとの発言もありました。
個人的にはこれに賛成で、同じ基準で簡単に商品を比較できるようになるのが望ましいと思います。
現状では、運用コストは運用報告書で確認するしかなく、また運用による要因も含めて基準価額の実際の動きをみてファンドの実力を判断するしかなさそうです。
なお、「Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)」の運用方法は下図の通りで、マザーファンドを通じて構成銘柄を日興アセットマネジメントが直接買い付ける方式です(図は同ファンドのEDINET提出資料より)。
これは「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」と「たわらノーロード全世界株式」と同じ方法です。
eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)から乗り換えることは考えなくていい
このように、コスト面では既存の低コストインデックスファンドとの直接比較が難しいのが実情です。このことから、「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」から乗り換えていくことは現在のところ考えなくてもよいでしょう。
eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)は純資産総額が1兆円目前となりました。投資信託の運用の継続性には純資産総額も重要な要素ですので、その視点でも安心感が違います。
積み立てるファンドを変えるかどうかは、この先数年間の運用をみて、気になるほどの差が出てくるかどうかをもとに判断すればよいと私は考えています。
実際の運用状況に今後も注目していきます!
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