
インデックス投資を続ける上で、もっとも大切だと言われるのが「リスク許容度」の把握です。
確たる定義や計算方法がある言葉ではありませんが、「投資のリスク(値動き)をどれくらい許容できるか」を、家計や心理的状態をもとに分析することに相当します。言い換えれば、相場の急変時に、経済的に破綻しない範囲や、また理性的に行動できる範囲はどれくらいかを考えて、それを超えないように投資をしましょうという意味があります。単純に基準を設けるのは難しく、人によってこの度合いはかなり異なるのが特徴です。
一般に、リスク許容度を左右する要素として「年齢」がよく挙げられます。「若い人ほど、いま損失を出しても今後の運用期間が長いことと、今後の労働収入(人的資本)で損失を挽回できるから、高いリスクを取れる」という理屈ですね。





しかし、年齢以外にもさまざまな要素があることに気づきます。そのうちの1つが今回のテーマである資産額でしょう。
「40%の下落」をもっとも痛いと感じるのはどの段階か?
先日、投資ブロガーの九条さんが、Xで興味深いアンケートを取っていました。
どれが一番精神的に堪えますか?
自分の資産額より多い選択肢は想像で答えてください
— 九条@セミリタイア (@kuzyofire) February 12, 2026
①1000万円→600万円、②1億円→6000万円、③10億円→6億円、④100億円→60億円のうち、どの変化が一番精神的に厳しいのかという題材で、記事にもなっています。
論理的に考えれば下落率はすべて同じ40%であり、運用効率やポートフォリオの毀損具合という意味では、どれも等しいはずです。しかし、アンケートの結果および私自身の感覚は、これとは異なる様相になりました。





もっとも回答が多かったのは ②の「1億円 → 6,000万円」(約40%)、次いで ①の「1,000万円 → 600万円」(約30%) でした。
ちなみに、私自身の回答は②です。③や④の方が失っている金額は文字通り桁違いに大きいのですが、なぜ①や②が選ばれたのか⋯⋯という点が面白いところです。
個人の運用のリスク管理の本質は「率」ではなく「額」にある
投資の世界では、リターンもリスクも、運用金額に対する「率(%)」がどうなのかで語られるのが一般的です。しかし、私たちのリアルな生活を支えているのはむしろ運用金額に相当するほうであり、「率」が作用した結果、どれくらいの金額になったかでしょう。結局は、口座の中にある「〇〇円」という数字が重要なのです。





そうすると、なぜ①や②が選ばれるのかはわかりやすいと思います。それは、この価格帯の変動が「人生設計(ライフプラン)」に直接的な影響を及ぼすからです。
かつて「老後2000万円問題」が話題になりましたが、例えばリタイア直前の時期に1,000万円が600万円に減ってしまったら、それは老後の生活そのものが脅かされることを意味します。一方で、10億円が6億円になってもほとんどの人にとっては生活への影響はなく、単に遺産と遺族が支払う相続税が減るだけでしょう。





私たち個人投資家は、「もし○○円失ったら、自分の人生は危機に陥るか?」という、金額ベースの想像力を働かせているといえるわけですね。
このあたりの考え方は、企業経営などのリスク管理で使われる「VaR(バリュー・アット・リスク)」という考え方に近いといえます。VaRは端的にいえば、「現在の市況において予想される最大損失額はいくらか」を基準にするリスク管理指標であり、「もし〇〇円失ったら、自社の経営は危機に陥るか?」という基準で考えていることになります。
私の場合、現在のわが家の年間支出(直接税・社会保険料を除く)は約700万円ほどです。インフレや生活の変化を考慮せずにこのペースで支出が続くと仮定すると、あとあと50~60年生きるとすれば3.5億〜4億円程度が必要です。
この視点で先ほどの選択肢を見ると、10億円が6億円になっても生活を変える必要はなく、それこそ遺産が減るだけです。しかし、とくに人生の中盤で1億円が6000万円になるような事態になると、働く期間を延ばしたり、支出を大幅に削ったりといった軌道修正が必要になります。





ちなみに、2020年の新型コロナウイルス感染症が流行った時期には運用の序盤で、1500万円→1000万円という①の選択肢に比較的近い変動がありましたが、このときは心理的にこたえた記憶はありません。働いていれば補填できるというのが大きな理由ですが、リタイア済みでこの変動があったら大きなことですね。
結局は「資産がある人」ほど有利になるのが運用の世界
以上をまとめると、「資産額が大きくなればなるほど、リスク許容度は広がりやすい」ということが言えるでしょう。
暴落に遭遇したら軌道修正が必要になる程度の資産額であれば、運用においては慎重ならざるを得ません。しかし、暴落しても一生食べていくのに困らないラインを突破してしまえば、そこから先は遺産と相続税が増減しているだけになります。
冒頭の年齢に応じたリスク許容度の例として、「年齢に応じてポートフォリオの株式比率を下げて債券比率を上げる」「高齢者はリスクを取るべきではない」とよく言われますが、これも金額次第です。たとえ65歳であっても、資産が10億円あれば、全額を株式で運用して4億円失ったとしても、残りの6億円で悠々自適に暮らせるので、VaRの発想では何ら問題はありません。
この場合、その高齢者のリスク許容度は、資産1000万円の40代よりもはるかに高いと言えるでしょう。





身も蓋もないのですが、資産が大きければ大きいほど高いリスクを取る選択肢を取りやすく、結果としてリターンの期待値もさらに上がっていくという構造があるわけですね。
投資の成果は、①運用金額、②収益率、③運用期間の3つによって決まります。資産が少ない人は、①運用金額が少ないだけでなく、②収益率にも制約が出やすいという不利を負うことになってしまいます。ただ、無理に収益を狙うことが何を引き起こすかは書くに及ばないでしょう。





「資産額によってリスク許容度が変わる」と考えるのであれば、「資産が増えるまでは、リスク管理を人一倍慎重に行うべきだ」という教訓でもありますね。
一方、③運用期間はしっかり継続していけば確実に稼ぐことができます。
とにかく地味ですが、私を含めて大資産家ではない庶民の個人投資家は、今と将来の生活のためにどれくらいの金額が必要かを意識して、じっくりと市場に居続けることが重要な戦略だと言えるでしょう。その結果、資産が積み上がって自分のVaRに対して余裕が出てくる⋯⋯というステージにつながっていきます。


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