インデックス投資における生活防衛資金とその準備

無リスク資産
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突然の失業,病気,負傷――。長い人生で,災難はいつ誰の身に降りかかるかわかりません。運用資産を管理するうえで,どのように備えていますか?

突発的な事態に対応できるように備えることは,生活を維持するために重要です。給与以外に収入がたくさんあるならいざ知らず,私のように収入の大部分を給与に頼る人にとっては,なにかの原因で収入が途絶えたり,支出が大きく増えてしまったりした場合にどう対処するかを想定しておく必要があります。

いったい,どれくらいの金額を,どのように準備するのがよいでしょうか?

もちろん,答えは人によって異なります。

しかし,先人たちが勧める目安について調べてみると,その考え方には共通する原則もありました。この記事では,過去に提示されてきた考え方から,20代の会社員の私がどう考えるかについてまとめています。

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生活防衛資金とは突発的事態への備え

冒頭に挙げたような想定外の支出増加や収入減少に対して備えておくお金のことを,この記事では「生活防衛資金」と言うことにします。その役割や条件などについて検討します。

生活防衛資金の役割

生活防衛資金の役割について,インデックス投資ブログ「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー」を運営する水瀬ケンイチさんの著書『お金は寝かせて増やしなさい』(フォレスト出版)では,以下のように紹介されています。

生活防衛資金とは,リストラ・長期入院・災害などなにが起きても,自分と家族の生活をしっかり守るためのお金です。(p.58)

生活防衛資金が必要となる例

上記の例の繰り返しを含みますが,具体的には,以下のような場合に生活防衛資金を出動させることになるでしょう。

  • 自分の望まない突然の失職
  • 長期入院を要するような事故・病気
  • 家族の一時的な介護・看護
  • 地震・豪雨・火災などの大きな災害 など

いずれも,自分でコントロールすることが難しい事態です。それゆえに,次の条件が必要になってきます。

生活防衛資金に求められる条件

生活防衛資金の条件に,統一的な解釈はありませんが,私は,①価格変動がなく,②流動性(引き出しやすさ)がとても高く,③使途を定めない資金と理解しています。

つまり,生活防衛資金は無リスク資産の一部です。無リスク資産は,投資の性質を持つ国債や,近い将来の生活費・教育資金・消費財購入資金といった生活資金,そうでない突発的事態に備える生活防衛資金にわけることができます。

①~③を満たす資産の置き場には,普通預金などの銀行預金があります。これらをまとめると以下の表のようになります。

リスク資産の中にも短期間で現金化できるものがありますが,自分が動けなくなってしまう事故・病気に遭遇した場合や,ウェブにつながりにくい大規模災害時などは,引き出すまでに時間がかかってしまいます。

そのため,近くに店舗がある銀行に資金を確保するなど,生活防衛資金は「置き場」も重要です。

生活資金と生活防衛資金の違い

 

なお,生活資金と生活防衛資金の違いは,使途を定めているかどうかにあります。生活資金は,時期や金額が予測できる支出で,生活防衛資金はその他の突発的な支出時に使うお金です。

もちろん,上記のようにスパッと分類できないことも現実には多いので,実際の配分はもう少し流動的でよいでしょう。

なお,十分に資産を持っている人であれば,多額の生活防衛資金としてお金を確保せずに,運用資産を取り崩して対処することも可能です。ただし,景気が悪いときほど失業する可能性が高いので,資産価格が低いときに売らなければならなくなる場合があることは心得る必要があります。

用意すべき生活防衛資金の目安

生活防衛資金の必要金額について,私が所有するインデックス投資の指南書を調査しました。すると,次のような考え方の原則が見えてきました。

生活費を基準に考える

本によって条件や目安となる金額は異なるものの,①ある程度の手持現金は必要であり,②生活費をベースに必要金額を考えるという点で,見解が一致しています。

以下に,例として挙げている金額順に紹介していきます。

生活費の3か月分

読んだ本の中で最も少ない金額は,生活費の3か月分でした。

『ウォール街のランダム・ウォーカー』(バートン・マルキール)

米国の経済学者,バートン・マルキールは,その世界的名著『ウォール街のランダム・ウォーカー』(原著第12版)にて,次のように述べています。

どの家庭でも不慮の医療費支払いや一時的な失業時期をしのぐための,安全でいつでも引き出せる形で,ある程度の現金を持つことは絶対必要だ。もし医療保険や労災保険でカバーされている人なら,三カ月分の生活費を賄えるだけの手持ち現金というのが一応の目安だろう。高齢になるにつれて必要額は大きくなると考えられる一方,今の仕事の安定性が大きい人,あるいは比較的多額の金融資産がある人の場合には,より少なくて済むだろう。(p.365)

「生活資金とは別に」と明言はしていませんが,文脈から,生活防衛資金を指すことがわかります。

 

高齢になるにつれて必要額が上がるのは,家庭支出の増加や医療費の増加の可能性に備えるのかもしれません。また,収入の手堅さや金融資産の多寡も要因として考慮しながら決めるべきと助言しています。

日本の家庭は,公的医療保険や労災保険に加入済みです。したがって,入院や失職といった場合にも,すぐさま大金が必要になることは少ないと私は思います。ただし,それらが長期に及べば,3か月分では心もとないとも感じます。

『お金で損しないシンプルな真実』(山崎元)

経済評論家で資産運用を専門とする山崎元さんは,「間違いなく実行できて,大きな失敗をしない,誰にとってもおおむね最適な運用法」として,次のように指針を示しています。

①まず,当面の生活に必要なお金を銀行の普通預金に置きます。生活費の3カ月分くらいが目安です。②次に,残りのお金を,リスクを取ってでも増やしたいと思う「リスク運用」のお金と,絶対に減らしたくないと思う「無リスク運用」のお金とに分けます。
『人生を自由に生きたい人はこれだけ知っていればいい お金で損しないシンプルな真実』,p.133)

「当面の生活に必要なお金」としているので,「生活資金+生活防衛資金」と考えたほうがよさそうです。

収入のサイクルは1か月単位である人が多いので,定常的な生活資金を差し引くと,生活防衛資金は2か月分と解釈できます。

生活費の6か月分

『投資の大原則』(バートン・マルキール,チャールズ・エリス)

バートン・マルキールと米国の経済学者チャールズ・エリスの共著である『投資の大原則』(第2版)では,「不時の出費に備えて,現金は用意しておこう」と題した項目で,次のように解説しています。

ときどき「突然の出費」があり,それに備えてすぐに出せるお金は,別にとっておく必要がある。こういったお金は安全第一で,流動性が必要だから,短期で質の高い金融商品に投資するといい。(中略)どのくらいとっておくかは,あなたしだいだ。
多くのファイナンシャル・プランナーによると,定期的な収入のなくなる退職時,生活費として少なくとも6カ月分はとっておくのがよいとしている。(p.136)

「退職時」という言い回しなので,これを資産形成期の生活防衛資金と読み替えてよいかは疑問であるものの,失職に備えた目安にはなります。

「不時の出費に備えて」という項目であり,前後の文脈からも,高齢での退職時とは書いていないため,米国ではよく起こりうる失職時の備えと解釈してよいと思います。

生活費の2年分

生活費の2年分という意見もありました。

『お金は寝かせて増やしなさい』(水瀬ケンイチ)

水瀬さんの同書では,先にあげた通り,失職や長期入院などの個人的要因だけでなく,生活再建に長期間を要する大規模災害などに直面した場合に備える必要があると言及しています。

(投資を始めたころに読んだ本で紹介されていた)「職を失うというリスクに対しては,最低2年はみておきたい」という目安を妥当だと考えたため,自分の投資戦略として採用した(p.59,カッコ内は私が補足)

東日本大震災のことを思い出すと,(中略)もし自分だったらと考えると,自分と家族の生活を立て直すのに,少なくとも給料の3カ月分や半年分では心もとないと感じました。(p.59)

また,相場の急変動が及ぼす心理面への影響をやわらげる効果にも以下のようにふれています。

私が実際に資産運用をしていて実感したことなのですが,生活防衛資金は,私達の生活を守ってくれるだけでなく,心の安定も守ってくれるという副次的効果がある(p.62)

生活防衛資金に,生活資金と投資資金を切り離す役割をもたせています。

最悪を想定し,安全寄りに資金を確保することで,心理的な安心・安定を得られるとの啓発が含まれます。

その他

具体的な記載がなかった本もありました。

『敗者のゲーム』(チャールズ・エリス)

チャールズ・エリスの単著『敗者のゲーム』(原著第6版)には具体的な記述はありません。運用基本方針について触れた文脈のなかに,少しだけ言及されています。

(運用ポートフォリオの)流動性については,ポートフォリオがその投資期間に見合った証券に運用され,十分に運用されている限り,特別に考える必要はない。
多くの投資家が,長期運用に専念するために,日常の支出をまかなう資金を手元に常時確保しておくことは妥当だが,「ポートフォリオの中の」キャッシュ比率はミニマム,できればゼロでよい。
(p.119,カッコ内は私が補足)

ややこしい言い回しですが,要するに,①あらかじめ決めた投資期間に合った運用を行う,②長期投資に専念するための手元資金は確保するということが述べられています。

「長期投資に専念」と明言しており,決めた運用期間より前に簡単にリスク資産を売却することは著者の考えに反するので,多少の資金の確保は必要であると思われます。

その他,保有する数冊の投資関連書籍を読みましたが,「投資以前」の部分である生活防衛資金について具体的な記述を見つけることはできませんでした。

まずは生活費3か月分の準備を

注目すべきは,先に述べた,①ある程度の手持現金は必要であり,②生活費をベースに必要金額を考えるという点です。そのため,生活費を基準に生活防衛資金の金額を決めていきましょう。

20代で大きな支出が少なく,失職時の再就職も比較的しやすい場合は,最も少ないおすすめ金額である生活費の3か月分程度の生活防衛資金があれば,何かが発生した際の一時的な対応には十分だと思います。それ以上の資金は,事態が長期に及んだ場合の備えと私は考えています。

しかし,ここで間違ってはいけないのは,「3か月分の生活防衛資金」で,3か月間生活できると考えてはならないことです。

たとえば,毎月20万円で生活している人が60万円の生活防衛資金を持っていたとして,事故や災害で急遽50万円の支出をしてしまえば,生活費として使えるのはわずか10万円になります。失職時でも,再就職のための試験や研修に費用が発生すれば,その分,生活費は削られてしまいます。

また,自分が支えなければならない家族が増えたり,転職の制約が増えたりしたときには,それだけ生活の立て直しに時間がかかりますので,生活防衛資金の準備も積み上げなければなりません。

一般的には,バートン・マルキールが指摘するように,年齢を増すごとに必要な生活防衛資金は増えていくでしょう最初は3か月分を目標とし,投資をしながら生活防衛資金を徐々に積み上げていくように考えていくのがよいと思います。

◆毎月の状況報告では,生活防衛資金を含む手持ち現金の状況にも言及しています。

月次実践録
月次の資産運用報告です。

◆この記事で参考にした本の紹介です。

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