5月5日、5月6日と連続で、日経新聞にて「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」(オルカン)をテーマにした特集が組まれています。
1本目の記事は2024年3月に行われた三菱UFJアセットマネジメントのブロガーミーティングの内容をまとめたものと思われます。2本目の記事は三菱UFJアセットマネジメント常務取締役の代田秀雄さんへのインタビュー記事です。
日経新聞の記事は契約していないと全文が読めないのですが、楽天証券ユーザーはアプリ「iSPEED」から日経テレコンが無料で利用できます。これを利用すれば読むことができますよ。
ちなみに下記記事の私への取材もこの日に受けています。
オルカンの運用は膨大な工夫と苦労の結晶
オルカンは新NISAが始まって以降、最も売れている投資信託です。三菱UFJアセットマネジメントの推計による、2024年1~2月の2か月間での資金流入額の上位5本は次の通りです(2023年の1年間も掲載)。
ファンド | 2024年1~2月 | 2023年1~12月 |
eMAXIS Slim全世界株式 (オール・カントリー) |
5701億円 | 7351億円 |
eMAXIS Slim米国株式 (S&P500) |
3883億円 | 7516億円 |
eMAXIS Slim全世界株式 (除く日本) |
273億円 | 1005億円 |
eMAXIS Slim国内株式 (TOPIX) |
216億円 | 264億円 |
eMAXIS Slim 先進国株式 |
163億円 | 806億円 |
ブロガーミーティングで解説されたオルカンの運用方法の工夫は日経の記事で詳しく報道されていますが、要点としては次のようなところ。
- 各国市場は時差の影響があるため、発注のタイミングはさまざま。
- 売買手数料や各国でかかる税金の圧縮のため、実際の売買では時価総額の小さい銘柄の売買を控えながらも、指数に追従できるように工夫している。
- 新興国では現地通貨の調達や投資規制への対応も業務の1つ。
- ファンド(オルカン)への資金流出入も予測しながら行う必要がある。
- 配当金は発生のタイミング(指数では即時に反映される)と入金のタイミングのズレがあるため、それを埋めるために先物も活用する。
- 売買手数料の圧縮のために複数の会社から手数料が最も安いところを活用したり、1銘柄ごとではなく複数銘柄を一気に取引するバスケット取引も行う。
- 株主優待はなるべく換金してオルカンの運用資金に加えていく。
先物に投資するのは記事になっている理由のほかにも、現物運用で取引税がかかる国や少額の投資先で利用したりするなどの工夫が話されていました。
外国株は為替の影響もあり、ここも間違えたら買付資金が足りないとか、運用のトラッキングエラー(指数に追従しないこと)にもなりかねず、重要な業務の1つでしょう。日銀の介入にもヒヤヒヤしそうな気がします。
ファンドへの資金流出入額を予想するAIを活用しているとの話もあり、工夫が凝らされていることがよくわかりました。下記のファンド比較記事で毎月運用状況をみていますが、オルカンは他社ファンドと比較してもかなり優秀です。
Slimシリーズは10年後に60兆円規模に?
2本目の記事の代田さんへのインタビューはeMAXIS Slimシリーズの現状と今後についての話が中心でした。
- 新NISAによる資金流入は予想以上に大きかった。
- Slimシリーズの純資産総額は10年後に60兆円をめざす(現在9兆円)。これで投信市場全体の4分の1になる予想。
- 英国ISAの利用率(約4割)を考えれば、日本ではNISAが4000万口座くらいに届くのではないか(現在約2000万)
- 販売会社のオススメではなくブロガーミーティングなどを通じてファンを増やしていく方法で広がってきた。
- 低コスト戦略だけでなく、投資家との向き合い方で差別化してきたことが支持されている要因。
- 100万円預かっても年間175円しか取れないが、赤字になるような設計はしていない。純資産総額が増えるほど利益は出る。
- オルカンは全世界株式インデックスファンドを要望する個人投資家の声を受けて作った。
などなど。ただ個人的には、情報発信を積極的に行ってきたことだけでなく、「業界最低水準の低コスト」を体現するために信託報酬を(他社に追随する形であるものの)引き下げてきたことが一番の要因だと思います。
業界最低水準の低コストをうたっていることは記事内でも発言してるのですが。「投資家としては」ブランディング戦略の恩恵を受ける部分は大きくないので
— なまずん🐟20代からインデックス投資をスタート🐟 (@gameoftheweak) May 6, 2024
投資家としては結局そこが大事ですからね。
大変な運用を低コストで実行してくれることには非常にありがたいことです。5~10年前と比べればすでにコストも限界に近い領域まで下がってきましたが、この状況はNISAなどの政策の影響もありますが、投資家側が運用会社にも働きかけ、さらに商品を選択していくという行動を示してきたことで出来上がってきました。
良い商品を提供する運用会社なくしてはインデックス投資をすることができず、一方で投資家がいるからこそ運用会社が継続的に商品を提供できます。利害関係が一致する部分だけでなく、一致しない部分があるため、人気のオルカンといえども投資家としては厳しい目で見ていく必要があります。そのうえで、運用会社の取り組みは積極的に応援したいと思います!
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