親の運用資金を「こどもNISA」に移すべきか?

251225親の運用資金を「こどもNISA」を移すべきか? NISA・つみたてNISA
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2025年12月19日に「令和8年度税制改正大綱」が発表されました。すでに話題になっていますが、所得税における「年収の壁」の引き上げや通勤手当における非課税範囲の拡充、住宅ローン減税の延長・拡充、暗号資産税制の変更といった方針が示されているほかに、NISAの対象を18歳未満に広げるという画期的な考えが示されました。

正式名称はわかりませんが、報道では「こどもNISA」とされているので、この記事では「こどもNISA」と言いますね。

この記事では現在までにわかっている制度のポイントと、どのように使っていくかについて考えたいと思います。

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「こどもNISA」はこんな制度

現行のNISAでは、年間投資額の上限としてつみたて投資枠が120万円、成長投資枠が240万円となっており、生涯投資枠として1人あたり1800万円が利用可能です。この1800万円のうち、成長投資枠には1200万円の上限が設けられています。NISAの対象年齢は18歳以上であり、0~17歳は利用できません。

これまでに発表されていることを踏まえると、今回の「こどもNISA」は、次のような仕組みになるようです。

  • NISAのつみたて投資枠が0~17歳も利用できるようになる
  • 年間投資枠は60万円、限度額は600万円
  • 子が12歳以上で同意がある場合にのみ親権者が売却・払出できる
  • 子が18歳に到達したら成人と同じNISAに移行する
  • 開始時期は2027年

要するに、現行のNISA制度とは別に「こどもNISA」が創設されるのではなく、あくまでも「現行のNISAのつみたて投資枠を0~17歳のうちに先取りできる」という仕組みです。使途に指定はありませんが、12歳以降で本人の同意がある場合に売却できることから、教育資金の準備への配慮がなされていると言えるでしょう。

2023年まで存在した未成年を対象とした旧ジュニアNISAや、贈与税における暦年贈与の上限、まもなく制度が終了となる教育資金の一括贈与における優遇とのバランスを考慮したのではないかとは思います。

「年収の壁」は低所得者に恩恵が偏る一方で、子どもがいるという条件はありますが、高所得者はこのNISA拡充を最も効率よく活用できます。今回の税制改正大綱が双方に対する一定の配慮をしたような感じですね。

いろいろな制約はあるものの、NISA制度自体は単純に拡充されたことになります。まずはこの動きを歓迎したいと思います!

「こどもNISA」をどう使う?

一方で、すでにNISAには大きな非課税投資枠があるため、「こどもNISA」までフル活用できる人は多くはないだろうというのが私の率直な感想です。以下の2つのパターンを想定して、どのように使っていくのがよいのかを考えたいと思います。

自分のNISA非課税投資枠を埋められない場合

まず、自分のNISA非課税投資枠1800万円を埋められる見込みがない人は、「こどもNISA」には手をつけず、まずは自分のNISAを埋めていくほうがよいでしょう。

わが子に早くから資産を持たせたい気持ちはわかりますが、「こどもNISA」は子の将来のNISAの非課税投資枠を先取りするだけです。つまり、子どものNISAの非課税投資枠を消費してしまいます。

将来、子どもがNISAの上限の1800万円を埋められるような収入を得られる場合には、「子どものNISAは早々に上限に達して課税口座で投資せざるを得ない一方で、親のNISAはガラ空き」という非効率な状態が生まれかねません。そのため視点を広げて、まずは親子でNISAの非課税投資枠を最大限に活用することを目指すほうがよいのです。

また、「こどもNISA」の資金は子の同意があれば12歳以降に売却可能ですが、その資金は親の名義でありません。親が自分の名義で購入する不動産や車、老後の生活費などには使えないことにも注意が必要です。

もちろん、後々に子から親に贈与するという手段はあるものの、それなら最初から親が自分自身のNISAを埋めていけばよいわけですよ。

ですので、例えば親のNISAの商品を売却して、「こどもNISA」で運用する方法や、親のNISAの買付を止めて「こどもNISA」で新規買付するといった方法は賢い方法ではないでしょう。

「こどもNISA」の利用は、親が自分のNISAの非課税投資枠を埋めてからというのが基本です。配偶者がいる場合には、自分と配偶者のNISAを埋めてから「こどもNISA」の出番になると考えておくのがよさそうです。

祖父母からの贈与資金を「こどもNISA」で運用するといった方法はありますけどね。

なお、以前に検討していますが、特定口座で運用中の資金があれば売却して、親のNISAでの運用に移行するのが有利です。これで親にNISA非課税投資枠が埋まるのであれば、次に「こどもNISA」に取り掛かりましょう。

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自分のNISA非課税投資枠を埋められる場合

自分のNISA非課税投資枠を埋められる場合は、「こどもNISA」で非課税運用と将来の相続税対策を並行して進めるのが有利になるでしょう。とくに、NISAの年間投資枠360万円(配偶者がいるなら2人で720万円)を超えて毎年投資できる高所得者層は、使わない理由がありません。

年間60万円を子に贈与したからといって、おそらく将来に自分が困ることはないでしょうからね。

新規投資分だけでは親のNISAを埋められない場合には、親のNISAを埋めていくことと、「こどもNISA」を埋めていくことへの優先順位をつける必要があります。基本的には、前述のように親のNISAの1800万円を埋めてから「こどもNISA」の順が適切です。

ただ、特定口座に資金がある場合には、それを売却してNISAを埋めていくという手段を取ることができます。親のNISAについては、過去記事の通り、年間の新規投資額と特定口座の商品の評価損益の状況によって最適解が異なります。特定口座の商品を売ってNISAに移して最短5年でNISAを埋めたほうがよい場合と、売らずに特定口座の商品は継続保有し、5年超をかけてNISAを埋めていくほうがよい場合があるのです。

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1人あたりの年間投資額300万円、この先30~40年運用を想定しているわが家の場合は、評価益20%を超える商品は売らずに特定口座で持ち続ける合理性があります。

しかし、「こどもNISA」の場合にも同じような検討をするのは、相続税なども考慮して評価する必要が出てくる点で。網羅的なシミュレーションが困難です。さらに、将来の運用リターンや税制、そして子ども自身の稼ぎがどれくらいになるかなど、その他の不確定要素による影響も非常に多くなります。

そのうえ、税制による損得とは別の視点として、「子どもにいつお金を渡すのか」といった時間的価値も重要です。具体的に言えば、多少損してでも早い段階で贈与されて18歳時点で1000万円を持っているのと、得だからといって相続まで渡さずに55歳で5000万円を受け取るのでは、お金のもつポテンシャルはまったく違うのではないでしょうか。

特定口座の資金を売却して「こどもNISA」に率先して移していくと、金額だけを評価軸にすると損する可能性があります。ただ、お金の持つ時間的価値の大きさを考慮すると、私は早めに「こどもNISA」に移したほうがよいと思っています。ですのでわが家ではそのような方針で進めていくつもりです。

なお、その際には特定口座の資金を売却することになるのですが、税金の繰延効果を考えれば、「損益率の低いもの(含み益の少ないもの)から売却」するのが正解です。したがって、これまでに保有していない別の投資信託を新たに特定口座で積み立てることで、既存の商品よりも損益率の低い保有銘柄を作っておき、それを「こどもNISA」が始まったら売却する……といった戦略もありだと考えています。

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