理論の歴史と関係性が一冊でわかる:『ファイナンス理論全史』(田渕直也)

投資の参考書
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現代ファイなまずんです。

私は経済学を体系的に学んだことがありません。理論には断片的に知識があっても,それぞれの関係性は全然わからない状況でした。だからファイナンス理論についても言葉は聞いたことがあっても,その内容についてはあいまいな理解のままでした。

難しい数式なしに現代ファイナンス理論の全体像(関係性)がわかるという書評を見て購入しました。

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ファイナンス理論の歴史は,インデックス投資誕生の歴史でもある

「貯金感覚で投資」という言葉に象徴されるように,投資が身近になったのはつみたてNISAやiDeCoのような仕組みができ,資産形成を後押しする土壌ができたからです。

つみたてNISAやiDeCoは長期積立によるインデックス投資を想定した制度です。

仮に理論がわからなくても,過剰なリスクさえ取らなければ投資が大失敗に終わることは少ないでしょう。しかし,理論は私が行おうとしているインデックス投資の枠組みです。より深く理解するためには共通語として,理論の正しい理解が必要です。

そう思って本書を手に取りました。

本書を手に現代ファイナンス理論の歴史をひもとくと,現代ファイナンス理論の発展なしにインデックス投資は登場しなかったという真実も明らかになります。

本書の情報

著者:田渕直也氏

1985年一橋大学経済学部卒業後,日本長期信用銀行に入行し,デリバティブを利用した商品設計,トレーディング,ポートフォリオマネジメント等に従事。英国証券現地法人であるLTCB International Ltd,UFJパートナーズ投信(現・三菱UFJ国際投信)などを経て,現在は金融アナリスト,コンサルタント。著書多数。

発売日・版元

2017年12月13日発売。経済関連書籍に強みを持つダイヤモンド社から。

本書の構成

目次

第1章 ランダムウォーク理論の誕生と激しい反発
第2章 ポートフォリオ理論と銘柄選択、どちらが役に立つのか?
第3章 金融工学が生んだリスク管理の限界と新たな危機
第4章 現実に舞い降りたブラックスワンの爪痕
第5章 行動ファイナンスがもたらした光明
第6章 統計的手法と人工知能が別次元に導く未来

こんな人にオススメ

インデックス投資の投資理論に触れている『ウォール街のランダム・ウォーカー』や『敗者のゲーム』などを読んだことのある方(あるいは,これから読みたい方)にちょうど良いと思います。

ランダムウォーク理論,モダンポートフォリオ理論,CAPM(資本資産評価モデル),効率的市場仮説など,インデックス投資のバックボーンになるファイナンス理論のつながりを知りたい人には好適書です。

判型は小ぶりで厚みも気になるほどではなく,列車での移動中などにも気軽に読めそうです。

ただ,ファイナンス理論もインデックス投資も全く学んだことが全くない人にとってはレベルが高そうです。また,一分野を学問として追究したい人にとっては概説的すぎるように感じます。

時系列とキーパーソンから現代ファイナンス理論を追う

現代ファイナンス理論のややこしさは,理論の発展がどのような時系列なのかわかりにくいところに一因があると思います。

また,数学などと違って絶対的な解があるわけではないため,常に反対陣営の主張にさらされています。ある仮説が正しいと仮定してその上に理論を構築するような構造のため,土台となる理論を把握していないとごちゃごちゃになってしまいます。

本書では現代ファイナンス理論を時系列かつ体系的に,提唱者などキーパーソンの人となりなどを交えながら知ることができました。

以下,本書から学んだ内容として,現代ファイナンス理論の誕生からインデックス投資の開発などを簡単にまとめます。

そもそも,現代ファイナンス理論とは

1950年代以降に成立した科学的な金融理論です。高度な数学を使った体系的,科学的な金融理論である金融工学はその一領域です。

1952年にハリー・マーコウィッツの発表した「モダンポートフォリオ理論」からスタートしたというのが定説です。

ランダムウォーク理論

マーコウィッツの発表の約50年前,1900年にフランスのルイ・バシュリエが発表した理論。金融市場の価格形成を研究し,全くでたらめな動き(ブラウン運動やウィーナー過程と言われる)が連なって価格形成されていると結論づけました。

その要点は「株価の先行きは予測不能。しかし,ある時間経過後に取る価格の確率は計算可能」というものです。

現在は画期的な理論として考えられていますが,当時この発表は先進的すぎて,マーコウィッツの登場まで50年以上にわたって正しく評価されなかったようです。

効率的市場仮説

インデックス投資家にとっては聞き慣れた仮説かもしれません。1960年代に米国の経済学者,ユージン・ファーマが発表しました。

市場価格にはそのときに利用可能な情報が全て織り込まれており,故に市場価格は常に適正であるとする仮説です。あくまで仮説で,過去の壮大なバブル期など一部の例外を除き,現実を概ねうまく説明できているとされています。

モダンポートフォリオ理論

マーコウィッツが発表した理論で,「分散投資の知恵」を理論化しました。それまでは分散投資が有効なことは経験的に知られていましたが,期待リターン(合理的に期待できる予想収益率)とリスク(価格変動幅)という概念を登場させ,運用資金をどのようにさまざまな資産に振り分けるべきかを考えることができるようになりました。

その要点は,期待リターンは複数資産の期待リターンの加重平均となるのに対し,リスクは加重平均より小さくなる(完全相関しない場合)という発見です。
同じ期待リターンを得るために,リスクが最小となる組み合わせ(効率的フロンティア,有効フロンティア)が存在することがわかりました。

CAPM(資本資産評価モデル)とインデックスファンド

その後,米国の経済学者ウィリアム・シャープにより,CAPMが発表されます。このモデルにより,期待リターンの計算ができるようになりました。

このモデルの根幹は定期預金金利や国債などのリスクフリー資産の金利(リスクフリー金利)と株式などでリスクを取る見返りに得られるリスクプレミアムという概念です。この理論により,期待リターンに対してリスクが最小限になるという点で,市場全体をポートフォリオに取り入れるのが最も効率的という結論に至ります(本書では例示で詳しく説明されています)。

結局,「リスク選好度はリスクフリー資産と市場ポートフォリオへの投資割合で決定するのが最も効率的」との見解が示され,「市場全体をポートフォリオに取り入れる」必要性から,インデックスファンドが登場していくのです。

その他,本書では近年までの経済学者・数学者が打ち立てたさまざまな理論を紹介し,その脈々としたつながりを解説しています。

理論同士の関係性が明確で,爽快な読後感

私は本書を読むまで,モダンポートフォリオ理論やCAPMなどは名前は知っていたものの,内容や理論同士の関係性を全くわかっていませんでした。

金融理論の面白さは,唯一の正解がある数学などとは違って,現実をモデル化した理論の不安定さにあるようにも感じます。

叡智の結晶でありながら,不完全であるファイナンス理論。理論を神聖視することも,完全に無視することも,きっと破滅につながり得る行為です。「理論を賢く使う」というスタンスが必要と本書を読んですっきりわかり,爽快な読後感でした。

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