『投資と金融がわかりたい人のための ファイナンス理論入門』:理論の要点の理解に

210816投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門 投資の参考書
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ファイナンス理論の要点を「深入りしすぎずに」説明した良書でした。


理論書は深いところまで説明しすぎてややこしく,実践書だとサラッと流してしまうところで説明不足。株や債券とは何かを知っているけれども,「なぜその価格になっているか」や「銘柄の保有の割合によってリスクやリターンがどのように変わるのか」はよくわからない。

そんな人にとって,この本はピッタリの1冊だと思います。

目次は後に掲載しますが,本書は次の3つの論点を解説しています。

  • プライシング理論
    →株や債券,不動産といった資産の価格決定についての理論
  • ポートフォリオ理論
    →何にどれだけ投資するかを決める理論
  • リスク管理
    →過大な損失を回避するための考え方

この3つは投資の実践の中核をなす考え方です。インデックス投資の理論的背景や,判断の難しい「リスク管理」の要点が,私もよりわかるようになりました。

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目次と全体の内容

はじめに

第1章 プライシング理論――“本来の価値”をどうやって求めるか
1 株・債券,不動産,プロジェクト,企業――すべて同じ考え方で価値を求められる
2 すべてを「お金の流れ(キャッシュフロー)」として捉える
3 キャッシュフローに「値段」をつける
4 将来キャッシュフローの「値段」はどうやって決めるのか
5 いろいろな資産の“本来の価値”を求めてみる
6 将来キャッシュフローが状況によって変化する場合
7 将来キャッシュフローの推定自体がそもそも難しい場合
8 まとめ

第2章 ポートフォリオ理論――どの資産にどれだけ投資すればよいか
1 資産の組み合わせを合理的に決める
2 ポートフォリオ理論の土台は「資本資産価格モデル(CAPM)」
3 CAPMの先へ
4 まとめ ポートフォリオ理論を学ぶことの意義

第3章 リスク管理――適切なリスクとは? 致命的な損失を避けるには?
1 リスクとは何か
2 市場リスクの捉え方
3 「非常事態への備え」の基本はValue at Risk
4 テールリスク管理
5 まとめ

第4章 統計分析――自分で分析する方法を身につける
1 まずは,データに問題がないかを確認する
2 統計分析の実際
3 計算した数値を使って,最小分散ポートフォリオを作ってみる
4 βの計算
5 まとめ

おわりに

他の本と比較してもオーソドックスな内容です。ある程度,理論をかじっていれば聞いたことがある言葉があるでしょう。

第1章「プライシング理論」では,株価や債券価格,不動産価格などを理論的にはどのように説明できるかを解説しています。

基本的な考え方は1つだけ。「将来に得られるお金を,現在価値に計算しなおす」というものです。高校数学で数列を学んだ人ならごく簡単です。そうでない人でも,これは足し算と掛け算だけで説明できるので,自信をもって読み進めることができそうです。

理解の要点に,例や図による説明が載っていてとても親切な構成でした。

第2章「ポートフォリオ理論」では,「何にどれだけ投資すればよいか」という方法論について,資本資産価格モデル(CAPM)の考え方を中心に概要を解説しています。

「ポートフォリオの決定に必要な要因(決定因子)はなにか」を軸に話を進めています。そのため,難解な話は最小限。何をもとに理論が構築されて,それがどのように結論につながっているかの俯瞰的な見方ができます。

βという1ファクターで説明を試みるCAPMだけでなく,マルチファクターモデルの考え方も解説されています。最小分散ポートフォリオリスク・パリティ運用などの他の手法も,どの要素がどのように異なるのかを比べながら解説が進みます。これによって総合的に理解が進みました。

第3章「リスク管理」は,インデックス投資しかやらない人にとってもぜひ読んでいただきたい章です。

実践編の第4章とも関連しますが,予想最大損失額(Value at Risk:VaR)を求める計算はやってみると役立ちます。長期に運用されている投信の過去の基準価額の推移のデータをSBI証券やモーニングスターから持ってきて,この本に書かれている流れで計算してみると,リスク管理を見直すきっかけになります。

私の保有する投信のリターンをもとに,「100日に1回ほどは,運用資産が-5%程度の下落に見舞われる」という事実を知りました。年に2~3回くると考えると,心の準備ができますよ。

理論の理解がなにに役立つか

本書の第2章で詳しく解説されているCAPMは,インデックス投資の理論的背景になっています。

結論を言えば,無リスク資産とリスク性資産を保有するときに,CAPMから導かれる最も効率的な投資法の結論が,「リスク性資産を市場ポートフォリオと同じ構成で保有すること」になるからです。市場ポートフォリオとは,すべての資産の時価総額加重平均,すなわち市場そのものを反映したポートフォリオです。

もちろん,未公開株や不動産を含めた世界中のあらゆる資産を時価総額加重平均で保有することは不可能です。基本的には株式市場を考えていく方法でよいでしょう。

わかりやすい例としては,時価総額加重平均の全世界株式インデックスファンドに投資して運用することが該当します。このような運用を別称で「パッシブ運用」とも言います。

また,各国の指数に連動するインデックスファンドを時価総額比で組み合わせても同じ結果になります。全銘柄は含まれないものの,時価総額の多くを占める銘柄で構成されたS&P500のような指数も,似たような結果になります。

理論の概要を理解しておけば,より自信を持ってインデックスファンドを購入できると思います。なお,なにかの指数に連動していても,それが市場全体を反映していなければ,一般的に言われる「インデックス投資」とは別物ですので注意しましょう。

理論を理解するさらなる利点は,理論の限界を理解できることです。CAPMを含めて,投資理論は仮定の上に仮定を積み上げて結論を導いているような場合も多くあります。

鉄板のように強固な論理のうえに成り立つ数学や物理学と比べたら,ファイナンス理論は豆腐のようなもの。自然科学を学んだ理系の立場からみると,これを理論という同じ言い回しで呼んでよいのか? と疑問に思うくらいの“やわらかさ”ですね。

「考え方」や「発想法」程度にとらえてちょうどよいのではないでしょうか。実際に,「理論をもとに考えて応用していく」といった使い方が説明されています。

理論の限界を知ることで,「理論ではこうだから,このように投資すれば大丈夫!」といった投資行動が危険であるとかえって理解できます。逆説的ですが,投資の奥の深いところをよく表しています。

本書で物足りなかったところを1つ挙げると,個人的には数式中の言葉を文字に置き換えてほしかったところくらいですね。式は「期待収益率=〇〇……」のようにすべて言葉で書いてあります。

リスク管理が誰もが理解しなければならないこと

さて,プライシング理論やポートフォリオ理論を学ぶこと以上に,実践家はリスク管理の手法を知ることが重要です。なぜなら,よく分散されたインデックスファンドに投資している人にとって,これらの理論を知ったところで行動はなにも変わりません。一方で,リスク管理は行動に直結していきます。

ある程度のリスクを取らなければ収益が限られ,将来の生活の豊かさに影響を及ぼします。しかし,高リスクすぎる運用で過大な損失を被れば取り返しのつかないことになってしまいますから。

本書ではおもに,予想最大損失額(VaR)を求める方法と,それをさらに超える状態におけるストレステストという方法を紹介しています。

詳しくは本や専門的に説明した記事に譲るとして,それぞれ次のような場合を想定します。

  • VaR
    →○%程度の確率で起こる損失の予測(○は1%や5%など)
  • ストレステスト
    →過去最大規模の暴落や,それを超える事態が発生したときにどうなるかのシミュレーション

VaRは年に数回起こる程度の事態での損失額を推定します。運用期間中にしばしば発生するため,これで問題が起こるような運用は避けなければなりません。ストレステストはいわば,究極の状態です。極端な事態でも破綻しないことの確認に使うとよいでしょう。

インパクトも強いので,多くのブロガーさんが紹介していますよね。たとえば,投資ブロガーのナザールさんはこういったシミュレーションをときどき公開しています。

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学ばなくても実践できるが,学んで得るものは大きい

「知識が少なくてもできる」という点はインデックス投資の魅力です。実践さえしていれば理論を知っていても知らなくても同じだけのリターンをあげられます。

しかし,理論を知っておくことによってその実践への理解が深まります。とくに,理論の限界を知っておくことは,「論理的に正しそうに見えて実は穴だらけ」といった運用方法にハマることを防ぐうえでも重要です。

多くの情報が行きかう現代で,身を守ることにも役立ちます。興味があればぜひ。

◆なお,インデックス投資は理論だけでなく,実証研究や統計の見地からもその方法の有効性が示されています。その代表的な一冊も。

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