2020年11月6日,年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2020年9月末時点での運用状況を発表しました。
日本の公的年金制度は世代間扶養が原則であり,現役世代が納付した保険料をそのまま給付にあてる賦課方式です。しかし,高齢化などによる人口構成の変化などに備えて,支払いにあてられなかった保険料は年金積立金として計画的に運用されています。GPIFはその年金積立金を管理・運用する機関です。
GPIFの運用は究極的な長期投資
年金制度は今後100年ほどの持続性を意識して設計されています。年金積立金の運用もその計画に含まれていて,今後100年間にわたる給付のうち,約1割は年金積立金の運用収益と元本の取り崩しによってまかなわれることになっています。
すなわちGPIFの運用は,たかだか数十年後までしか運用できない一般投資家よりも長く,これから生まれてくる将来世代までを射程におさめた究極的な長期投資ともいえます。
GPIFのウェブサイトにもこのように長期的な観点からの運用指針が示されています。
株式や債券の運用によって得られる収益(儲け)は,短い期間ではプラスやマイナスに大きく振れる可能性がありますが,長期的に見れば,世界の経済活動などに資金を提供する対価として,元手を増やすことができています。GPIFによる年金積立金の運用は,株式や債券などの資産を長期にわたって持ち続ける「長期運用」によって,安定的な収益を得ることを目指しています。
具体的な目標としては,年金制度の持続性のために,「賃金上昇率+1.7%」の運用収益を上げることを掲げています。この目標は各期ごとの運用成績を短期的に評価するための指標ではなく,長期投資のポートフォリオを決めるための指針です。
GPIFの保有するポートフォリオは2020年に変更が行われ,国内株式・外国債券・国内株式・外国株式が4分の1ずつとなりました。
国内債券 | 外国債券 | 国内株式 | 外国株式 | ||
資産構成割合 | 25% | 25% | 25% | 25% | |
乖離許容幅 | 各資産 | ±7% | ±6% | ±8% | ±7% |
債券・株式 | ±11% | ±11% |
乖離許容幅は各資産や債券・株式の比率がこれを超えないように制限しているものです。
引用箇所の繰り返しになりますが,GPIFの運用手法はこれらの資産を長期にわたって持ち続けることと明言されています。
2020年春のコロナ・ショックを経て運用状況は最高を更新
11月に発表された直近の結果では,下の図のとおりGPIFの運用成績は2001年度からの累積で74.9兆円の収益となりました(図はGPIFウェブサイトより)。
1年間の年金の給付金額が55兆円程度(2017年度実績)ですから,74.9兆円という運用益の規模は非常に大きなものです。また,運用成績は短期的には上下に振れていますが,約20年という期間で見てみると,年率で平均3.09%の運用益を上げています。
また,この累積運用益は元本となる資産の価格上昇によるキャピタルゲインと,利子・配当収入に当たるインカムゲインに分解することができます。以下の図のように,キャピタルゲインの部分は下落することがありますが,インカムゲインによる収益は常に増加する方向にあります(図は公表資料より)。
したがって,長く運用すればするほど,元本を大きく毀損するような状況には陥りにくくなっていくことにもなります。
「運用を続けること」は長期投資の成功に間違いなく必要
GPIFの運用成績はよいときに比べて,わるかったときにばかり注目される傾向があります。実際に2020年春のコロナ・ショックによる株価の世界的な下落が直撃した2019年度末は野党の批判やマスメディアの一面的な報道もありました。
年金積立金という社会的に重要な資産を運用しているのですから,野党はともかく,報道機関は中立的な視点から専門家に説明させるようにすべきだと思うのですが,そのようにできていないのが実情です。
しかし,これまでに十分な運用成績を上げているのは,2001~02年のITバブルの崩壊,2008年のリーマン・ショック,2020年のコロナ・ショックという大きな下落にさらされたにもかかわらず,運用から撤退せずにリスク資産を持ち続けたことがあります。
GPIFの運用指針にもある通り,長期目線での運用とは,市場に投資を続けてそれに見合ったリターンを受け取り続けることを意味します。そのためには短期的な騰落を乗り越えていかなければなりません。
100年を見据えるGPIFほどではないにしても,その半分くらいの投資期間を視野にいれている私のような若年世代の投資家にとっては,GPIFの運用指針とその成果には見習うべきところが多いように感じます。
運用そのものを頑張る必要はなくても,市場の騰落にかかわらず「運用を続けること」は長期投資の成功に間違いなく必要な要素です。
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