なまずんです。
一般紙に掲載された「お金の若者離れ」という投書が話題となりました。Twitterで8万件以上のリツイートを集めています。
「お金の若者離れ」(朝日新聞5月5日) pic.twitter.com/EC6p7FHu0b
— Tad (@TadTwi2011) May 5, 2018
今日はこれを若者の立場から考察したいと思います。
「お金の若者離れ」現象の原因は2つ
こういった世代間のお金の話になると,〇〇の世代が搾取し,〇〇の世代が搾取されているといった側面が注目されがちです。実際,上のツイートにも感情的な反応が多いです。
感情的な反応を除いて分析してみると,「お金の若者離れ」の元凶は,主に「現在の可処分所得の減少」と「将来の可処分所得への悲観的な予見」とまとめられそうです。
確かに,元の記事では可処分所得の減少だけでなく,「私たちに支払われるかどうかわからない年金のことを考え,貯蓄に回す」と,将来の所得への不安を書いてます。
Twitter上ではこの2つを整理して論じられてはいません。そこで本稿では,「お金の若者離れ」問題の背景には,
・現在の可処分所得の減少がある
・将来への不安(=「将来の可処分所得の減少」)によるストレス・恐怖がある
・それがお金を使わない,お金を使えない若者を生み出している
との構造を仮定して考えを展開したいと思います。
以下ではこの構造の背景を,感情と人間の性質をもとにまとめます。あくまでも個人的考えに基づくものですが,さらなる議論のきっかけになれば幸いです。
「持っているお金の減少」が大きなストレスに
単月赤字を経験して気づいた,感情のゆらぎ
家計簿上で赤字が増えていくと,何となく心がざわつきませんか?
地方出身で都内に一人暮らしをする私は2016年4月に就職して以来,毎月の収支は基本的に黒字。しかし,2018年4月は支出が多く,久々に赤字に転落しました。単月で4万7000円の赤字を出したのです。
その理由はシーズン特有の支出(異動に伴う歓送迎会)に加え,友人の結婚式の出席,家のトイレの故障などの突発的イベント,さらに旅行という大出費が重なったためです。
4月26日にはすでに赤字に突入していました。それ以来,月末までは心の余裕を失ったような,漠然とした焦燥感を感じながら過ごすことになりました。
思い出せば,学生時代はよく感じていたこの感情。仕送りとアルバイト,奨学金で生活をやりくりしていましたが,家賃や光熱費,通信費といった固定費が重く,変動費を切り詰めてなんとか赤字を回避していたことを思い出します。
いわば,赤字に恐怖を感じていました。持っているお金が減少するのがとても嫌だったのです。
当時は考えも及びませんでしたが,余裕を持った家計管理ができている今,単月赤字に転落して,「赤字のストレス」を再認識しました。
多くの人は月の収支を黒字にしようとする
多くの勤め人は月給制です。だから収支を1か月単位で考えます。1か月の収支を黒字にしようと,ときに必死になってしまいます。
私の経験上,印象に残っている極端な例を紹介します。ある月の20日頃,仲の良い友達数人での飲み会企画が上がりました。日程調整の結果,月末に決まりそうになったときのこと。ある一人がこう言いました。
「今月は飲み会に行くとギリギリ赤字になりそうだから,飲み会は来月の初めにしたい」
当人は真剣な面持ちでそう話しましたが,私は驚きました。ほんの少し長い目で見れば,月末の飲み会を翌月に移したところで現状は何も変わりません。
変わるのは当月の帳簿上の支出がわずかな黒字になるか,わずかな赤字になるかだけ。
決まりかけた予定をわざわざリスケジュールするほど,「赤字」,つまり,持っているお金の減少を認識することはストレスを感じさせるらしいのです。
では,なぜ人間は赤字に対してストレスを感じるのでしょうか。
持っているお金が減ると,ストレスを感じる理由
大きく分けて,2つの原因があると考えています。
1つ目は,人間には生存本能があること。
2つ目は,人間は予見能力がある生物であること。
現代では生存にお金が欠かせなくなっている
突然ですが,「今,あなたの持つお金が全てなくなったらあなたはどうなりますか?」
生きていけない,死んじゃう!と思うかもしれません。そこまででなくとも多くの人は困ったと感じるでしょう。
日本に住む大半の人はお金を払って自らの生活を成り立たせているので,「生存にはお金が必要」と刷り込まれています。
極論を言えば,「お金は生存に必須」「お金がない=死(あるいは,とても困る)」という,生存とお金が直結したイメージが私達には植え付けられているのです。
人間には生存本能があるので,死やとても困る状況を全力で「嫌だ」と認識し,心がざわつきます。
ちなみに,赤字がストレスになるのは資産家でも同じです。巨大な赤字を出すと,健康に悪影響が及ぶという研究結果が報告されています。この研究についてはちゅり男(@churio777)さんがブログでわかりやすく考察していましたので,詳しく知りたい方はぜひご覧ください。
お金のない将来をリアルに想像できる
では,こちらの質問はどうでしょう。
「今,あなたの持つお金を全て使ってしまったら,明日のあなたはどうなりますか?」
お金を持たない明日の自分は生きていけないだろう,困るだろうと,今,多くの人は感じるでしょう(この「今」というのがポイントです)。
人間には予見能力があります。明日の自分がどうなるかという予測が今の感情に影響するのです。重要な点は,「今,お金があっても将来が危ういと予測されれば,お金を使わない」というところです。
現代は「お金の若者離れ」の元記事にもあるように,若者にとって「将来の可処分所得の減少」がかなりリアルな将来像となっています。
将来の生存の確保(=将来のお金の確保)が危ういのではないかという予見能力のもと,例え多少なり金銭的余裕のある若者でも,今,お金を使わないという判断を下しているのではないでしょうか。
若者はお金不足のストレスの回避で精一杯である
ここまで,つまり「現在の可処分所得」と「将来の可処分所得」から,なぜ若者がお金を使えない,使わないのかを考えてきました。
古い世代が若かったころにお金を使えたのは,当時の可処分所得の多寡だけでなく,
・年功序列的な給与体系による終身雇用により,自分の将来の給与水準がわかりやすかった
・年金制度が現在ほど悲観されていなかった
という「将来の可処分所得の予見」が楽観的なものだったからとも言えます。
そのため,今いい暮らしをしたいという願望にのっとった消費活動となったのでしょう。
一方,現代の若者は今の可処分所得の減少だけでなく,年功序列・終身雇用が崩れ,将来の給与水準が不明確となったことや,退職後の年金不安という悲観的な予見のもと生きているとも言えます。
もちろん,ミクロでみれば個人差はありますが,社会全体というマクロな目で見れば,いい暮らしをしたいという願望よりも,現在や将来の赤字ストレスからの回避に精一杯な若者の姿がある,と言えるのではないでしょうか。
(2018/12/29 誤字の修正,表現の一部加筆・修正)
コメント
[…] 「お金の若者離れ」の真の背景は,世代間搾取ではなく「お金不足=死」という考えだ一般紙に掲載された「お金の若者離れ」という投書が話題となりました。 Twitterで8万件以上のリツ […]
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