因果関係と相関関係の違いを説明できるか?:『「原因と結果」の経済学』(中室牧子,津川友介)

書評

因果に縛られたなまずんです。

日々の生活の中で「因果」を考えることはありますか?
「Aすれば,Bになる」や,「Cしなければ,Dになる」など,ある原因から,ある結果が起こったという考え方です。

では,例えば「偏差値の高い大学へ行けば将来の収入は高くなる」
この因果は真実でしょうか。それはこの本を開けばわかります。

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偏差値の高い大学へ行けば将来の収入は高くなるのか?

本書まえがきに記されているこの問い。世間的によく信じられる言説です。

転職サイト「DODA」のデータによれば,卒業大学別平均年収は上位から,東京大学,一橋大学,京都大学,慶應義塾大学,東北大学,名古屋大学,大阪大学……と続きます。偏差値の高いこれらの大学の卒業生は確かに,高い年収を得ています。

では,「偏差値の高い大学へ行けば将来の収入は高くなるのか?」はYesでしょうか。実は,「経済学の有力な研究によれば大学の偏差値と将来の収入の間に因果関係はない」のです。

そこにあるのは「相関関係」。将来の収入が高くなりそうな人が偏差値の高い大学へ入りやすいだけかもしれません。詳しくは本書第7章で解説しています。

本書の情報

著者

中室牧子氏

教育経済学者。データと経済学の手法をもちいて,どのような教育が子どもの学力・能力を伸ばすかを研究している。個人の経験のみに基づく教育論ではなく,因果関係を示唆する科学的根拠に基づいた子育てや教育政策の重要性を訴える。

津川友介氏

医師,医療政策学者。ビッグデータから医療の質の改善と医療費の伸びを抑える方法を研究している。米国ハーバード大学で医療経済学者ジョセフ・ニューハウスやドナルド・ルービンなどから因果推論の考え方を学んだ。

発売日・版元

2017年2月発売。経済・ビジネスに強いダイヤモンド社からの出版です。

本書の構成

目次

第1章 根拠のない通説にだまされないために
「因果推論」の根底にある考えかた
第2章 メタボ健診を受けていれば長生きできるのか
因果推論の理想形「ランダム化比較試験」
第3章 男性医師は女性医師より優れているのか
たまたま起きた実験のような状況を利用する「自然実験」
第4章 認可保育所を増やせば母親は就業するのか
「トレンド」を取り除く「差の差分析」
第5章 テレビを見せると子どもの学力は下がるのか
第3の変数を利用する「操作変数法」
第6章 勉強ができる友人と付き合うと学力は上がるのか
「ジャンプ」に注⽬する「回帰不連続デザイン」
第7章 偏差値の高い大学に行けば収入は上がるのか
似た者同⼠の組み合わせを作る「マッチング法」
第8章 ありもののデータを分析しやすい「回帰分析」

誰を読者対象としているか

本書はデータや言説の解釈の仕方を指南する本です。
データをもとに,それは「因果」なのか「相関」なのかを判断する力を養いたい人への入門書です。

大学偏差値と年収のような,「もっともらしい思い込み」に真の因果関係があるのか,ただ相関関係があるだけなのかの判別法を事例を挙げて解説します。

簡単に「原因と結果」と判断するのはやめよう

因果関係か,相関関係か

2つのことがらのうち,片方が原因となって,もう片方が結果として生じた場合,この2つのあいだには「因果関係」があるという。一方,片方につられてもう片方も変化しているように見えるものの,原因と結果の関係にない場合は「相関関係」があるという。

本書の最大のテーマは因果関係と相関関係の違い。2つのことがらが生じたとき,私達はその2つを勝手に結びつけがちであることはノーベル経済学賞を取った行動経済学者,ダニエル・カーネマンの「ファスト&スロー」でも述べられる事実です。

因果関係と相関関係を見誤ると

因果関係が存在しないことの何が問題なのか,と思う人もいるだろう。(中略)しかし,私たちが何か行動を起こすときには,けっこうなお金や時間がかかることが多いということを忘れてはならない

因果関係と相関関係を混同が手痛いミスとなり得るのは,人生を分ける選択をするとき。進学するか,就職・転職するか,結婚するか。家を買うか借りるか。

「因果関係に見える相関関係」に時間やお金を使ってしまうことで,期待した効果が得られないのはもったいないことです。相関関係にあるものについては,努力しても結果を得ることはできません。

因果関係と相関関係の見極め方

本書では,2つのことがらが因果関係なのか相関関係なのかを確認するために,「因果推論」として3つの見極め方を提言しています。

  1. 「まったくの偶然」ではないか
  2. 「第3の変数」は存在していないか
  3. 「逆の因果関係」は存在していないか

ここからは投資に関する私の考えも交えて考察します。

「まったくの偶然」ではないか

これは投資の世界でもよくあるものです。書中にも,「日本のテレビでジブリ映画が放映されると,アメリカの株価が下がる」という例が紹介されています。
「ジブリの呪い」と言われるかなり有名な相関関係だそうで,Wikipediaページまであります。ご存じの方も多いのではないでしょうか。

ただ,これほど有名になってしまうとこの変動を見込んで投資行動を起こす人が出てくるので,因果関係のような動きを示すようになります(笑)。

「第3の変数」は存在していないか

これは,「体力のある子どもは学力が高い」のような相関関係です。この背景には「第3の変数」が存在するといいます。

例えば,「親の教育熱心さ」。教育熱心な親は子どもにスポーツを習わせ,勉強させるように仕向けるでしょう(この第3の因子を「交絡因子」と呼びます)。

これを因果関係と勘違いすると,学力を上げるために体力アップのトレーニングをするという間違った努力をしてしまいます。

「逆の因果関係」は存在していないか

本書では「警察官の人数」と「犯罪発生件数」の関係を例に挙げています。

犯罪の多い地域に警察官がたくさん配置されているという事実から,「警察官が多いから犯罪が多い」という関係を導くのはやや無理があります。「犯罪の多い地域だから,警察官が多い」と,実際は逆の因果関係の存在があり得ることを疑う重要性も述べています。

投資家にはオススメ

さて,投資の世界は「因果関係と相関関係」の混同で足元をすくわれやすいです。いつ,何に,どれくらい投資するかという判断はその後のパフォーマンスを大きく左右します。投資判断の際に一旦立ち止まって,「因果関係」の有無を考えることで,投資の成果が変わってくるかもしれません。

また,投資判断に限らず大きな物事の決断の前には,「その選択が因果関係に基づく判断か」を問い直してみてはいかがでしょうか。

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