2020年3月の大荒れ相場のなかでこの記事を書いています。
この記事では,私が気に入っているインデックス投資本を紹介します。インデックス投資ブログ「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー」を執筆する水瀬ケンイチさんの書籍です。
インデックス投資の貴重な「実践録」
長期でのインデックス投資を指南する定番書は,世界中で読みつがれてきた『ウォール街のランダム・ウォーカー』(バートン・マルキール)や『敗者のゲーム』(チャールズ・エリス)をはじめ,たくさんあります。多くの本は理論や研究成果を題材に,合理的な方法としてインデックス長期投資を勧めてきました。
もちろん,理論や研究の裏付けはかなり重要です。しかし,これから投資を始める初心者にとっては,一般書とはいえ,内容が重厚で,価格も高い訳本を読むのはそれなりに大変なことでした。
また,そういった本の弱点として,「長期投資を実践した記録」が収載されていることは少ないです。とくに,インデックス投資しやすい環境の普及が最近だった日本では,長期投資を実践する投資家の立場で,積極的に発信している人は多くはありませんでした。
その点,本書はインデックス投資に関する理論を簡潔に説明し,どのような流れで始めればよいかを,証券会社や投資商品の選び方を含めて解説されています。そのうえ,著者の水瀬ケンイチさんの15年にわたる実践をダイジェストした第5章「涙と苦労のインデックス投資家15年実践記」という貴重な資料が収載されているという魅力があります。
インデックス投資の合理性を訴えるだけでなく,実践するときの注意点や苦労した話などの実践録がとても参考になりました。
本書の情報
著者:水瀬ケンイチ氏
2005年からインデックス投資ブログ「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー」を執筆。『全面改訂 ほったらかし投資術』(経済評論家の山崎元氏との共著)などの著書がある。
発売日・版元
2017年12月。フォレスト出版。販売開始から2年で,10万部を突破したようです。
目次
プロローグ 私がたどり着いた「寝かせてお金を増やす方法」
第1章 金融のど素人でもプロと互角以上に戦える「インデックス投資」
第2章 寝かせて増やすインデックス投資の実践法
第3章 おすすめの金融機関&口座開設の手順と気になるNISAとiDeCo
第4章 始めるのはカンタンだけど続けるのは意外と難しい
第5章 涙と苦労のインデックス投資家15年実践記
第6章 貴重情報!インデックス投資の終わらせ方
インデックス投資に関する理論を解説し,はじめ方から終わり方までを解説しています。すでに述べた通り,私は実践録である第5章がお気に入りです。
投資は実践があってこそ
本書からは,インデックス投資の実践を通じてわかったことが数多く伝わってきます。そのなかで,とくに印象に残り,私がときどき読み返している2つのテーマをご紹介します。
生活防衛資金は2年分
本書では,「最悪の事態の想定は『厳しめ』に見積もるべきだった」との助言がなされています。リーマン・ショックの際は水瀬さんのインデックス投資ポートフォリオは53.8%もの下落を記録したそうです。
よく,損失金額の目安として投資商品のリスク(標準偏差)の2倍の値動きを想定するように言われますが,統計的には約5%の確率でこの範囲を逸脱します。
株式だけのポートフォリオであれば,この目安は1年間でおよそ45%です。しかし,これ以上の値動きがあり得ることは念頭に置いて投資計画を立てる必要があります。
ですので,手元に現金として置いておく「生活防衛資金」はギリギリの想定ではなく,荒れた相場でも落ち着いていられるように,水瀬さんは生活費2年分を準備することを勧めています。
◆生活防衛資金の準備についてはいろいろな意見があります。安心できる水準は人それぞれです。
こちらの記事では,本書をはじめ複数の本で勧められている水準を比べました。3か月から2年と,いろいろな考え方がありますね。
◆私の生活防衛資金の準備状況は毎月末に報告しています。生活費1年分前後であることが多いです。
含み損でも継続した2008~2012年の成果が今につながる
第5章「涙と苦労のインデックス投資家15年実践記」は,2002年から本書発行の2017年までの,水瀬さんのインデックス投資の実践録です。
この間には,2008年のリーマン・ショック,2011年の東日本大震災といった事件があり,そのときにも投資を継続しています。本書には水瀬さんの投資における実際の損益が掲載されているのですが,2008年から2012年末のアベノミクス開始までの5年間は元本割れしていたことがつづられています。
しかし,この期間に継続したことが,現在までの水瀬さんの成功につながりました。
株価が安いときにも我慢してインデックスファンドをコツコツ積み立て続けてきたことで,平均購入価格が下げられた結果,相場が回復する際に,ポートフォリオの損益が一気に回復しました(p.233)
本書では,2008年・2011年の下げ相場を経て「相場が永遠に下がり続けることはない」「インデックス投資家の仕事は『売りたくなったときに我慢すること』」というメッセージを伝えています。
相場が荒れたときに読み返したい一冊
投資に理論や研究成果を取り入れ,リターンの向上をめざすのは大切です。しかし,理論や研究だけでは,人はなかなか実践に移すことはできません。
また,相場が荒れたときに不安が大きくなって,損失覚悟の売却によって投資をやめてしまったり,積み立てをやめてせっかくの買い場を逃してしまったりすることもあるでしょう。冷静なときはあり得ないと思っていても,不安に駆られるとこのようなことになってしまうのです。
それゆえに,理論や研究だけでなく,「実践録」は重要です。
私はインデックス投資を始めて,執筆時点でまだ3年ほどです。しかし,本書を読み,SNS・ブログで実践している方と交流することで,長期的な視点で冷静に判断することができていると感じます。
インデックス投資は,同じ時期に,同じ指数に連動する商品を運用していれば,運用のうまさは全く関係なく,誰でも同じようなリターンを挙げられるという再現性にも魅力があります。
相場が荒れたときに,成功者の実践録として読みたい一冊です。
◆水瀬さんとは「ラーメンずずず会」1周年の回にて一緒にラーメンを食べました。
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