『ちょっと気になる社会保障 V3』(権丈善一):年金と社会保障の考え方がすっきりわかる!

書評
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社会保障分野,なかでも特に年金に関する入門書として定評のある『ちょっと気になる社会保障』(権丈善一著,勁草書房)の改訂版が2020年2月に出ました。

近年,「年金が崩壊する!」といったあおり文句を掲げる政治家によって政争の具になってきたことから,若い世代は年金制度をはじめ,将来の社会保障制度に漠然と不安を持っています。私も,将来,年金がなくなる……とまでは思っていませんが,どのくらいの給付額が保障されるかなどの仕組みは知りませんでした。

また,昔に比べて近年の保険料はかなり上がっています。現在の受給世代は支払った保険料の割に受給金額が多く,「私たち現役世代は損をしている!」といった論調もよく見かけるのではないでしょうか。実は,これも全体をみると正しい理解ではないようです。

この本は政治家や報道者のポジショントークからは距離を置いて,現在の日本の年金制度の仕組みができた経緯と,それをより良くするために何に気を配るべきかを啓発する一冊です。

やや難しい論点は,「知識補給」という読み物をつけて,かみ砕いて説明しています。おかげで,私のように,年金・保険の専門家ではない人でもすっきり理解できました。

わかりやすいだけでなく,その根拠となる内容までしっかり入っています! 「へのへのもへじ」のカバーからは想像できないほど真面目な分析でした(笑)。そのうえ,語り口がやわらかいので読みやすいという唯一無二のおすすめ本です。

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本書の情報

著者

権丈善一氏。慶應義塾大学商学部教授。博士(商学)。大学院を卒業後,大学に所属し研究者。

公務では,社会保障審議会,社会保障国民会議,社会保障制度改革国民会議,社会保障制度改革推進会議などの委員を務め,『ちょっと気になる政策思想』(2018年),『ちょっと気になる医療と介護』(2017年)などの一般書のほか,専門書の執筆も多い(本書著者略歴をもとに作成)。

発売日・版元

2020年2月発売。勁草書房。

目次

第1章 少子高齢化と社会保障
第2章 社会保障は何のため?
第3章 社会保障は誰のため?
第4章 社会保険と税
第5章 社会保険と民間保険
第6章 保険のリスク・ヘッジ機能
第7章 長生きリスクとは
第8章 年金が実質価値を保障しようとしていることを説明することの難しさ
第9章 結局,民間保険,社会保険,税の違いとは
第10章 社会保障がはたす3つの機能
第11章 建設的な社会保障論議を阻んできた悪気のないストーリー
第12章 もちろん留意すべき世代間の問題
第13章 社会保障規模の国際比較と財政
第14章 今進められている社会保障の改革とは?

第1章では,少子高齢社会でどのようなことが起こるかについて解説しています。

第2~6章では,社会保障・社会保険が成立してきた経緯がまとめられています。問いを立てながら論が展開されていました。

第7〜10章は社会保障・社会保険の詳しい解説で,難しいところも多いのですが,予備知識が少なくても読み切ることができました。完全には理解できなくても,著者の主張とその根拠はわかると思います。

年金と社会保険全体がすっきりわかる

年金をはじめとする社会保障の原則を短時間で正しく理解するには最適でした。

社会保障分野は近年,政治家にも支持を集めるための題材とされ,報道も断片的で誤解してしまいがちです。体系的にまとまった情報はなかなか入手できません。

政治論争や一面的な報道では,そもそも,なぜ年金制度があるのか,その価値やめざす姿は何なのかなどの原則を知る機会はないですよね。そこを理解していないと,判断を間違えてしまいそうです。

たとえば,私は本書を読んで,このような重要な考え方を知ることができました(私の言葉で要約しました)。

  • この数十年で高齢化が進んだが,労働者一人が支える人数は変化がない
  • 年金は「保険」であること
  • 「保険」の価値は損得ではなく,安心感であること
  • 「社会保険」の価値は,中間層の防貧と生活リスクへの対処にあること
  • なぜ税ではなく,社会保険で年金制度が作られたのか
  • 年金が保証する「実質価値」とはなにか
  • 年金受給開始年齢の前倒し・後ろ倒しは,年金財政的には中立であること
  • 税や社会保険は私的な助け合いを社会全体に広げたたもので,市場に任せるよりも格差が少ないこと
  • 消費税は逆進的という考え方でさえ一面的な見方であること
  • 年金では物価下落時にマクロ経済スライドを適用することと,加入者拡大が課題であること など

なかでも,「税や社会保険は私的な助け合いを広げたもの」という考え方には納得しました。現在の年金受給世代は支払った保険料の割に受給金額が多いですが,その人たちの親は年金制度ができる前でした。手取りの一部を仕送りしていたことでしょう。税や社会保険は,家族や個人で助け合っていたものを,社会全体で助け合うようにしたという成り立ちもすっきり理解できました。

また,年金については,少子高齢化の影響はどのようにしても受けてしまうようです。その影響を将来世代と分け合うマクロ経済スライドの適用については,いまの受給者には少しがまんしてもらう必要があるでしょう。さもないと,将来世代が悲しい思いをすることになってしまいます。

年金受給開始年齢の前倒し・後ろ倒しは年金財政に影響を与えないので,現在議論されている年金受給開始時期の選択の幅が75歳まで可能になったとしても,受給者に損になることはないというのもよくわかりました。

政治家の言葉や報道に困惑しないために

社会保障,とくに年金は政争の具になりやすく,報道を通じて耳にする情報はほとんどポジショントークです。

本書にあるように,年金の給付は保険料からまかなわれる以上,給付できる金額は限られています。政治家がとやかく言ってかんたんに変えてよい性質のものではありません。

たとえ一時的に給付を増やせても,それは将来の給付の「先取り」のようなやり方でしかできないのです。そういったところを無視した「年金カット法案」などの的外れな声については,中立的な視点から厳しく批判しているところも本書のよくできたところだと思います。

一冊でしっかり理解できる本に出会えてよかったです! お気に入りの一冊となりました。

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