『投資で一番大切な20の教え』:大事な判断を誤らない方法を教えてくれる一冊

210708 書評『投資で一番大切な20の教え』:大事な判断を誤らない方法を教えてくれる一冊 投資の参考書
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「逆張り」の投資を得意とするアクティブファンドの投資会社の創業者,ハワード・マークスの『投資で一番大切な20の教え――賢い投資家になるための隠れた常識』を読みました。

2012年に発行された本なので,すでに読んだという方も多いでしょう。本書は基本的にはアクティブ投資家向け,すなわち「インデックスをアウトパフォームしたい人」を想定した本です。

インデックス投資家の私としては,いわゆる「投資法」の本ではないと聞いていたので手に取りました。アクティブ投資の考え方も知っておきたいなと思ったことと,パラパラとめくったときの印象でインデックス投資にも役立ちそうだと感じたという経緯もあります。

読み終えてみると,やや軽い気持ちで読み始めた過去の自分を反省するような充実した内容でした。ふせんも40箇所ほど入りました。

投資で一番大切な20の教えを読んで

「20の教え」にセクションを分けていて,1章あたりのページは多くはありません。それでもサラッと読める本ではなく,腰を据えて読破したい味がありました。

余談ながら,本書の装丁もとても好きです。カバーをとった状態も気に入りました。

投資で一番大切な20の教えの装丁

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目次と全体の内容

1 二次的思考をめぐらす
2 市場の効率性(とその限界)を理解する
3 バリュー投資を行う
4 価格と価値の関係性に目を向ける
5 リスクを理解する
6 リスクを認識する
7 リスクをコントロールする
8 サイクルに注意を向ける
9 振り子を意識する
10 心理的要因の悪影響をかわす
11 逆張りをする
12 掘り出し物を見つける
13 我慢強くチャンスを待つ
14 無知を知る
15 今どこにいるのかを感じ取る
16 運の影響力を認識する
17 ディフェンシブに投資する
18 落とし穴を避ける
19 付加価値を生み出す
20 すべての極意をまとめて実践する

目次を並べてみると,インデックス投資でも共通しそうな言葉が半分くらいは並んでいることがわかります。

著者のハワード・マークスが投資業界に入ったのは1960年代で,それから本書を書いた2010年代までにはさまざまなことがありました。株式にとって良い時代もあったものの,「ニフティ・フィフティ」ブームの崩壊,ブラック・マンデーやハイテク株バブルとその崩壊,そしてリーマン・ショックのような暗黒時代もありました。

その経験を踏まえて,全体としては「下げ相場で損失を押さえつつ,上げ相場では平均相応のリターンをあげる」という方向で指数をアウトパフォームすることを狙った考え方をまとめたのが本書です。

このような方針から,比較的安定的に運用をしたい人にはより適している本だと思います。

「価値」と「価格」の違いは?

全編を通して参考になりましたが,とくに印象に残ったのは,繰り返し出てくる「価格と価値の関係性に目を向ける」という言葉でした。

投資は「良いものを買う」ことではなく,「ものをうまく買う」ことで成功する(p.53)

これは本書のなかで最も重要な解説の一つです。冒頭の「二次的思考をめぐらす」でも,「質のよい資産を買う」のではなく,「価値に対する価格が正当かどうか」に注目して行動するように促しています。

考えてみれば当たり前の話です。どんなに良い資産でも,高すぎる価格で保有してしまっては損を出したり,得られる利益が減ったりする可能性が高まりますよね。

リスクを正しく認識する大切さ

リスクとは,学術用語としてはボラティリティ(価格の変動幅)を指すことが一般的です。

しかし,マークスは理解を示しつつも,投資の実践におけるリスクは学術用語の範囲を超えていると語っています。具体的には,リスクとは何よりも資金を失う可能性のこと」(p.72)との立場をとり,さらに「目標を達成できないリスク」のようなものもあるとしています。

そしてこのようなことも書いています。

投資リスクは,最もリスクがないと思われているところで最も高くなっている,と私は確信している。逆もまたしかりだ。(p.105)

誰もがリスクが高いと考える資産の価格は低くなります。また,誰もがリスクが低いと考える資産の価格は高くなります。マークスは,それが行き過ぎたところに投資機会や損失の危機があると考えていることがわかります。

とくに,直近のリターンが高かった資産は低リスクで高いリターンを上げられるように見られがちです。実はそうではない可能性があるというのは,インデックス投資を実践するうえでも意識しておきたいところです。

高リスクの資産がつねに高いリターンを生み出すわけではない(そうであれば,高リスクとは呼べない)」といった言葉も繰り返し出てきます。

好調な時期は高リスクな資産ほど高いリターンを生み出すものの,不調な時期は大きく下がること。それは歴史が証明していますね。

なお,リスクについては,本書の後半では「誤りの許容範囲」という表現で,想定とは異なる運による結果が出ても,どこまでは許容できるかを範囲で考えておく必要があるということも提案されています。

この考え方も腑に落ちました。

すぐれた判断かどうかは結果からではわからない

また,詳しくは本書を読んでほしいのですが,「すぐれた決断とはなにか」という論点には考えさせられました。

投資は基本的に確率の世界です。したがって,どのような方法をとることで最も高いリターンをあげることができるかは,事前にはわかりません。これは逆も同じです。

「すぐれた決断かどうかは,結果から判断できるのではなく,結果が分かる前の段階においてすぐれているとみなされるもの」といった視点はたしかにそのとおりで,とても学びがありました。

大当たりをした人がすぐれた判断をしたとは限りません。一歩間違えば大事故になっていた可能性もあります。さまざまな市況の繰り返しの判断の中で,「だいたい合っている」判断ができた人が,すぐれた投資家であろうとの解説がなされています。

その他にも投資における楽観・悲観のサイクルを意識することや,投げ売りが発生しているときにこそ投資のチャンスがあることなどの基本的な投資観が随所にまとめられています。

失敗を防ぐリスク管理の発想はインデックス投資家にも役立つ

さて,ここからはインデックス投資家としての私としてどう読んだかという話です。

本書は具体的な手法ではなく,その前段階に必要な基本的な投資観を解説しています。その点で,投資手法は異なるものの参考になりました。とくに,失敗を防ぐ発想に注意が払われていることには好感を持ちました。どのような投資法をとっていても,ここは共通点が多いはずです。

なお,平均的なパフォーマンスで良ければインデックスファンドを買えばよいということも語られています。私としてはプロがひしめく市場の平均を超えるのは難しいと考え,時間と労力をかけずに平均のリターンを上げられれば十分と判断しています。

そのため,積み立てでインデックスファンドを購入していく方針には本書を読んでも変わりません。

ですが,マークスが「成功しやすい」とする「市場がパニックに陥って売りが殺到しているような状況」では,長期的な目線での企業価値と,短期的についている価格には差が生まれてくるかもしれません。

直近では,サーキットブレーカーが数度にわたって発生したコロナ・ショックのときはさすがに行き過ぎた価格になっていたのではないでしょうか。

そのようなときには積立金額を少し増やしてみるような方法もありかもしれませんね。似たような場面が到来したときは,本書をよく読み返して,価値と価格の乖離や市場の状態を感じとりながら,冷静に判断したいと思います。

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