2019年11月1日,世界最大級の運用会社であるバンガードの日本法人バンガード・インベストメンツ・ジャパンが主催する「第3回ブロガー交流会」に参加しました。運用の知識の限られた素人投資家にもかかわらず,お誘いのお声がけをいただいたことにはお礼申し上げます。
参加してバンガードのことをより深く知ることとなりました。これまではバンガードの商品性にばかりに注目していましたが,今回,バンガードの運用理念とビジョン,そしてそれらの一貫性を強く感じることができました。本記事は交流会の内容を踏まえつつ,投資を始めたての人にも,バンガードが何を大事にしているかが伝わるように,情報を整理してお伝えしたいと思います。
バンガードとジョン・ボーグル氏
交流会ではバンガードの歴史や在り方と,ジョン・ボーグル氏の考え方について紹介がありました。
バンガードは1975年に,ジョン・ボーグル氏が米国で創業した運用会社です。1976年に最初のインデックスファンドを販売開始し,それ以来,低コストインデックス運用における第一人者として知られています。
本社は米国ペンシルバニア州。2019年6月末時点で,417本のファンドを運用し,運用資産は600兆円を超える世界最大級の資産運用会社です。世界で3000万人以上がバンガードのファンドに投資しています。
全世界株式ETFのバンガード・トータル・ワールド・ストックETF(VT),全米株式ETFのバンガード・トータル・ストック・マーケットETF(VTI),S&P500に連動するバンガード・S&P500 ETF(VOO)といった株式インデックスファンドのほか,債券ETFのバンガード・米国トータル債券市場ETF(BND)など,多様なインデックス運用商品を取り扱っています。
日本からは,こういった米国籍ETFの購入のほか,バンガードETFを購入する国内運用会社との共同ファンドとしてアクセスできます。
1929年生まれ。1975年にバンガードを創業し,以来,インデックスファンドの商品化と個人投資家の利益を追求した。2019年に逝去。著書『インデックス投資は勝者のゲーム』(パンローリング)など多数。おもな功績は以下の2つ(バンガード・インベストメンツ・ジャパンより引用)。
- 初の個人投資家向けのインデックス・ミューチュアル・ファンドを設立し,懐疑的な見方をする人々がいる中で,こうしたコンセプトの後押しを続け,広く認められてきました。
- 絶えず投資家の利益最大化を追求し,ミューチュアル・ファンド業界に低コストのインデックス・ファンドを広めました。ボーグル氏がその哲学を具現化するために創設した会社であるバンガードは,現在,世界最大級の投資運用会社となっています。
バンガードには投資家の支持を得つづけてきた明確な理由がある
1975年の創業以来,世界最大級の運用会社にまで成長したバンガードの理念とその足跡についても言及されました。話と資料をもとに,バンガードの特徴についてまとめます。
バンガードの投資哲学
ファンドや運用会社を知るには,その基本的な考えを知ることからです。バンガードは永続的な投資哲学として,4つの基本原則を掲げています。
- 目標
明確で適切な投資目標の設定 - バランス
幅広く分散しているファンドに投資し,適切な資産配分を - コスト
コストの最小化 - 規律
規律ある長期的な視点を
この投資哲学に共感する投資家が多いことが,間接的にバンガードの成長につながっています。具体的には,続く3つの特徴にあらわれています。
600兆円の運用資産
バンガードの運用資産は継続的に増加し,2019年8月31日時点で,5.6兆米ドル(約600兆円)に達しています。説明によれば,この規模は日本の資産運用業界の運用残高の合計とほぼ同じです。
また,バンガードが運用する600兆円の資産のうち,個人投資家の資金の割合は約80%を占めるそうです。説明によれば,日本の業界平均は16%程度とのこと。その是非についての判断は難しいですが,バンガードが個人投資家の資産運用に力を入れていることは確かです。
ファンドが,運用会社を所有する構造
バンガードはその所有構造に特色があり,これが運用理念やビジョンの一貫性につながっています。
バンガードは,ファンドが,バンガード自身を所有する構造を取る唯一の運用会社です。一見ややこしいですが,この方式がファンドの投資家にとってとても合理的であることは以下の図を見れば明らかです(バンガードのパンフレットをもとに作成。ロゴはウェブサイトから)。
外部に株主がいる場合では,運用会社はその外部株主に利益を還元する必要があります。また,所有者である外部株主の意向は,運用会社の方針に大きな影響を及ぼします。ファンドに投資する投資家にとって有益なことと,運用会社の所有者にとって有益なことが一致するとは限りません。
しかし,ファンドによって運用会社を所有してしまえば,外部株主は不在となり,利益相反がなくなります。この方式はファンドの投資家がその考え方に基づいて運用できる唯一の方法です。そして,バンガードはこの方式でファンドを運用するただひとつの会社です。
バンガードのコストに対する考え方
最初のファンドが登場して以来,経年推移はグラフのとおりです(バンガード英語サイトより,数値の追加など一部改変)。バンガードのファンドの経費率の平均は当初は業界平均に近かったものの,現在は圧倒的な低コストとなりました。
しかし,利潤追求のための経営戦略として低コスト化したわけではないという点に特徴があります。
バンガードのコストに対する考え方はシンプルです。それは「アットコスト」という考え方に基づきます。アットコストとは,適正な受益者負担という意味で,ファンド運用においては,ファンド運用に必要な経費のみをファンドの保有者から徴収するということになります。
バンガードのファンドの経費率が経時的に引き下げられてきた背景には,これまで言及したたように運用の規模がどんどん大きくなったことと,ファンドに利益相反を及ぼす外部株主がいないことがあります。
反対に,今後,運用規模が縮小したり,運用にかかるコストが高まったりした場合は経費率が引き上げられる可能性もあります。低コストありきの会社ではなく,必要な運用コストだけを投資家から集める思想がバンガードにはあります。
交流会でのQ&A
交流会では白熱した質疑応答がありました。詳しく踏み込んだ論点もありましたが,投資環境に大きな影響を及ぼしそうな内容は次のとおりです。
- 直販の予定はあるか?
⇒現在のところ,ない。 - 日本での展開に,共同ファンドにする理由は?
⇒バンガードの日本法人には運用のための組織がない。日本籍のファンドを新たに作るとなると,運用会社を新たに作るようなコストが発生してしまう。共同ファンドは,すでに低コストな米国籍のファンドに「ただ乗り」するような目的もある。なお,外国籍投信として過去に販売したことはあるが,この方法は一般投資家にとっては購入までのハードルが高く,あまり浸透しなかった。 - 経費率はどこまで下がるだろうか?
⇒わからない。すでに述べたとおり,経費率は営利上の経営戦略として決めているわけではない。必要なコストだけを投資家から集める。
そのほか,米国の金融教育やシニア層向けのファンドについて話がありました。そのほか,おもなQ&Aの模様については投信ブロガーの青井ノボルさんがすでに書いています。
投資の理念を実現した運用会社
私は,新興国ETFのバンガード・FTSE・エマージング・マーケッツETF(VWO)と,楽天投信投資顧問との共同ファンドである楽天・全米株式インデックス・ファンド(楽天VTI)を保有しています。インデックス投資をはじめて3年に満たない私にとって,これまで,バンガードは,圧倒的な運用資産残高を背景に,低コストなインデックス連動型投信・ETFを販売する「商品力の運用会社」という印象でした。
バンガードの所有構造やコストの考え方についても知識としては持っていましたが,その根底に創業者であるジョン・ボーグル氏から脈々と受け継がれてきた考え方があるというつながりがよくわかり,今回参加して少し考えが変わりました。どちらかというと,「投資の理念を実現した運用会社」というほうが正しいようですね。個人投資家の投資環境を向上させるための仕組みに真の強みがあります。
私は,資本主義の拡大の論理に基づき,「十分に分散されたインデックスファンドを,長期にわたって保有し続ける」という方法が多くの投資家にとって適していると考えています。これはバンガードの理念と共通することから,非常に共感を覚えました。
バンガードをより深く知ることができて大満足でしたが,一つだけ言い添えるとしたら,こういった話は私たちブロガーというよりも,これから投資を始める人たちにこそ届けたい内容でした。すでに投資を始め,続けるだけの知識がある人たちではなく,まだそこに至っていない,投資の理念とは何かを知るべき投資家の卵や,長期投資に迷いを覚えている段階の駆け出し投資家にこそ届けたいというのが,たまたまインデックス投資という手段にたどり着いて,ブログを書くに至った私の思いです。
私自身,深い商品知識があるわけでもなく,運用会社主催の交流会への参加は初めてでしたので強く思うのかもしれません。この点は国内外のあらゆる運用会社に求めたいことです。
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