「資産形成は〇〇のファンド1本で完結できる!」とよく言われるようになりました。いろんな本やサイトでも紹介されています。
「〇〇」に入るのは全世界株式や米国株式、8資産均等型……といろんなパターンがありますね。
私も1本のファンドで資産形成を進める戦略には異論はありません。しかし今日は、「あえて1本にしない」ことで税金を繰り延べる方法を考えてみたいと思います。
同じ指数に連動する2種類のファンドを考えてみる
具体例からみるほうがわかりやすいので、次のような場合で考えてみましょう。同じ指数に連動する次の2本のファンドがあるとしましょう。
- ファンドA
- ファンドB
たとえば、「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」と「たわらノーロード全世界株式」の組み合わせや、「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」と「SBI・V・S&P500」の組み合わせ、「eMAXIS Slim先進国株式」と「<購入・換金手数料なし>ニッセイ外国株式」の組み合わせなどです。
選んだファンドに20年間、毎年50万円ずつ積み立てていきます。20年目には投資元本が1000万円になります。
仮に、20年目の評価額が2000万円(つまり、評価損益+1000万円)になったとします。2本のファンドの信託報酬の差や運用の誤差は今回は無視して、基準価額の動きは同じとします。
ここからは、①20年間ファンドAだけをつみたてた場合、②10年目までファンドAを、11~20年目はファンドBをつみたてた場合に分けて考えます。
②の場合、ファンドA・ファンドBともに元本は500万円です。一般的には運用期間が長いファンドAのほうが評価額が大きくなっていると思います。なので、次の表のようにファンドBよりもファンドAのほうが評価益が大きい状態を仮定しましょう。
ファンド | 評価額 | うち元本 | |
①の場合 | A | 2000万円 | 1000万円 |
②の場合 | A B (合計) |
1250万円 750万円 (2000万円) |
500万円 500万円 (1000万円) |
②の場合のカッコの中は、ファンドAとBの合計の評価額および元本です。
一括で売却した場合には差がない
まずはこの時点で一括で売却した場合を考えてみます。結論からいえば、このときは、①も②も結果は同じです。税率が20%であれば、税金を200万円払って、手元に残る現金は①でも②でも1800万円になります。
①ファンドAだけをつみたてた場合
差が出てくるのは「一部を取り崩して、その後も運用を継続していく場合」です。
ここで、90万円が必要になったときの取り崩しを考えて比べてみましょう。①の場合、90万円の現金が必要になれば、ファンドAを100万円分売却することになります。
100万円分を売却すると税金として10万円が引かれて、90万円が税引後の利益です。それと、取り崩していない下表の運用資産が残ります。
ファンド | 評価額 | うち元本 | |
①の場合 | A | 1900万円 | 950万円 |
次回の取り崩しまでにこの1900万円を運用できることになりますね。
②途中で積み立てるファンドを切り替えたとき
ここで、②の場合にて同様に税引き後90万円を取り出す場合は、「ファンドAを約102.7万円売却し、約12.7万円の税金を払う」「ファンドBを約96.4万円売却し、約6.4万円の税金を払う」などのパターンがあります。
最も有利なのは、「ファンドBを約96.4万円売却し、約6.4万円の税金を払う」というパターンです。利益の少ないファンドを売却する場合は相対的に元本の割合が高く、支払う税金が少ないからです。
こうすると、下表の運用資産が残ります。
ファンド | 評価額 | うち元本 | |
②の場合 | A B (合計) |
1250万円 653.6万円 (1903.6万円) |
500万円 435.7万円 (935.7万円) |
次回の取り崩しまでにこの1903.6万円を運用できることになりますね。
①の場合と②の場合では運用資産に3.6万円の差が生まれました。これが税金の支払いを繰り延べる手法です。このようにパターンの②では、一定の金額を取り崩すときになるべく税金を支払わないような売却方法をとることができます。
さらに運用していくと?
株価が上がった場合は②のほうが好結果
すでに説明したように、売却時に元本の割合が高い(=利益の部分が少ない)ファンドから売却することで、②のほうが運用資産を少し大きく保つことができるようになります。
たとえば、この1年後にファンドA・Bの基準価額が10%上がったとしましょう。つまり下表のような状態です。
ファンド | 評価額 | うち元本 | |
①の場合 | A | 2090万円 | 950万円 |
②の場合 | A B (合計) |
1375万円 719.0万円 (2094万円) |
500万円 435.7万円 (935.7万円) |
ここですべてを売却してみます。すると……
利益に課税されたあとの金額は、①は1862万円、②は1862.3万円になります。この差の0.3万円分が税金を繰り延べた期間の運用による効果です。
最初の取り崩し時に税金として払うぶんが少なく、その部分を運用に回せたことで、最終的な税引後リターンも少し大きくなりました。
ちなみに、支払う税金の総額で見れば②のほうが大きくなりますよ。
株価が下がった場合には逆効果にも
一方で、株価が下がった場合には逆効果になり得ます。先ほどと同様の方法で税引後90万円を取り崩した1年後に、ファンドA・Bの基準価額が10%下がったとしましょう。
ファンド | 評価額 | うち元本 | |
①の場合 | A | 1710万円 | 950万円 |
②の場合 | A B (合計) |
1125万円 588.2万円 (1713.2万円) |
500万円 435.7万円 (935.7万円) |
ここですべてを売却すると、利益への課税後の金額で、①は1558万円、②は1557.7万円になります。今度は①のほうが有利な結果になりました。
②は株価が高いときに元本をより多く売却し、低いときに少なく売却したことによる影響という解釈でよいのだと思います。
複数回に分けて長期的に売却する計画なら積み立てるファンドを分けるのはあり
ある時点での一括売却ではなく、複数回に分けて売却しながら長期的に運用していく場合で、長期的には株価が上がると考えれば、税金を繰り延べるこの手法はリターンの向上につながるでしょう。
ただし、差はそれほど大きくはなりません。いったんは税を繰り延べても、後にはより多くの税金を納めることになるからです。そのため、あまりにたくさんのファンドに分割して積み立ててまで対策する必要性は低いと個人的には思います。
手間が増える割にプラスの影響が小さいのではないかと思います。
私は10年おきくらいに、2~3本のファンドに分けて運用をしていこうと考えています。最後に積み立てるファンドも10年は運用したいですね。運用期間が短いほど元本割れしやすくなります。そうなると損益通算が必要になり、売却の際の検討事項が増えることになるからです。
なお、同種ファンドがない場合は「異なる証券会社で同じファンドを買う」という方法も使えます。特定口座では証券会社ごとに取得価額を分けて計算するので、別のファンドを購入するのと同様の効果があります。
そもそも「買う時期」を分けないと意味がないのでご注意を。評価損益の割合の違いを利用する方法なので、同じ時期に同じファンドを買ってもこの作戦は意味をなしません。
◆投資信託とETFで「税金の繰り延べ効果」を簡単に比較したこともあります。合わせてどうぞ。
◆対象指数ごとにリターンを比較した記事もあります。同種のファンドの検討にどうぞ。
コメント
基本的な質問で申し訳ないのですが、「結論からいえば、このときは、①も②も結果は同じです。税率が20%であれば、税金を100万円払って、手元に残る現金は①でも②でも1900万円になります。」とあるんだけど、税率が20%であれば、税金は譲渡益1000万円の20%の200万円になるのではと思いました。どこか違うのかしら?
自分も同じようなバランスファンドを複数社持っていたりするので、面白い議論だと思いました。自分が複数社持った理由は別にあって(万が一、一方が途中償還とかになっても後悔しないようにという趣旨でした)、税金の繰延の点には気づかずにやっていました。
にこいちさん
こんにちは。コメントをありがとうございます。その部分は完全に誤りで、1800万円が正しいです。最後に追加した部分ですっかり気を抜いていました。正しいものに修正しました。
同じようなファンドを持っているパターンは私もそうで、実は理由もにこいちさんと似ています(その理由に加えて同種ファンドのなかでコストや運用の適切さの競争をしてほしいなと)。
信託報酬等のコストが一緒であればこの記事の方法でいいと私は思っているのですが、判断に難しいのは高コストなほうが損益率が良い場合ですね。