投資信託の「税金の繰延効果」を過信してた件

その他税金
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個別株やETFと比較した再投資型投資信託(以下,投資信託)の利点は何でしょうか?

その1つは,税金を繰り延べることによる運用成果の向上です。

今の日本の税制では,株式等の配当金や譲渡益に20%(所得税15%,住民税5%,2037年までは復興特別所得税(0.315%)が加算)がかかります。配当金を再投資するならば,配当金を現金で受け取らずにそのまま再投資できる投資信託が税制上有利というのが,ETFではなく投資信託の購入を推奨する立場からの”通説”です。私はこの説を特に検証することなく信じていました。

もちろん,論理的に正しい点は確かです。ただ,長期投資家の立川一さんの記事を読んで目からウロコが落ちる経験をしました。

Value Investment since 2004 税金繰り延べ効果の過信に注意!
長期に配当収入増加と資産形成を目論む立川一の投資日記。

「実は,利回り10%以下で運用期間が30年くらいだと,あまり大きな差がつかない」

投資信託のほうが税制上は確かに有利ですが,どの程度有利なのか,数字ベースで語られないまま言われがちとの問題点を立川さんは指摘しています。

「信託報酬が○%違うと数十年後に運用成績はこれだけ違う!」と主張する記事はよく見ますが,税金の繰延効果を数字で検証する記事は少ないです。私も計算したことがありませんでした。

「税金の繰延効果があるのは確実だから」といって思考停止。そんな状況に陥っていることに気づきました。この記事では立川さんの見解をもとに,積立投資した場合も簡単なモデルケースで検討しました。

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税金の「繰延効果」とは

株式等の値上がり益や配当金などによって利益を得たときは,税金が発生します。個別株やETFで得た利益を再投資する場合は,利益に課税された後で再投資することになります。

一方で,投資信託は課税される前に再投資できます。再投資を繰り返した後,解約時に利益部分に課税されます。

この2つの何が違うのでしょうか? それは,税金が発生するタイミングを先延ばしすれば,複数年以上にわたる運用では成果の向上が期待できます。例を示します。

例:毎年3%の利益が発生する場合

初年に100万円分の金融資産を保有し,2年間,3%ずつ利益が発生します。2年後の運用成果を比べます。

税金を繰り延べる場合(投資信託)

【1年目】
100万円 × 1.03 = 103万円 になります。税金を支払いません

【2年目】
103万円 × 1.03 = 106万900円 になります。税金として利益の20%を支払います。税額は1万2180円。課税後の資産は104万8720円です。

毎年税金を払う場合(個別株やETF)

【1年目】
100万円 × 1.03 = 103万円。税金として利益の20%を支払います。税額は6000円。この時点で,課税後の資産は102万4000円です。

【2年目】
102万4000円 × 1.03 = 105万4720円。税金として利益の20%を支払います。税額は6144円課税後の資産は104万8576円です。

運用成績に差が生じる

運用成績に144円の違いが生じました。税金を繰り延べると支払う税額そのものは増えますが,これは最終的に利益が増えたためです。そのぶん手残りも増えています。そして年数を経れば経るほどこの差は広がっていきます。

ですが,100万円に対して144円はわずか0.0144%。3%で2年間の運用では実質的に差がありません。

40年,50年だと差があるか?

立川さんの記事はリターンを毎年一定として,年率2%,5%で10~30年運用した場合と,年率10%以上で50年までの計算をしています(詳細は立川さんの記事をご覧ください)。

さて,それではこのくらいのリターンで,どれくらいの差が生じるでしょうか?

今後の数十年におけるインデックス投資の平均年率リターンを,私は年率2~5%程度と考えています(JPモルガン・アセット・マネジメントの長期見通しの分析より)。

一括投資の場合

長い運用期間が見込める若手層向けに,2~5%で40,50年運用した場合を追加した表を作成してみました。1年目に一括投資し,それぞれの平均年率リターン(幾何平均)で10~50年運用した場合に何倍になるかを計算したものです。参考に10%で運用した場合も併記しました。

年数10年20年30年40年50年
2.00%繰延1.181.391.651.972.35
課税1.171.371.611.892.21
3.00%繰延1.281.642.142.813.71
課税1.271.612.042.583.27
4.00%繰延1.381.952.794.045.89
課税1.371.882.573.534.83
5.00%繰延1.502.323.665.839.37
課税1.482.193.244.807.11
10.00%繰延2.275.5814.1636.4194.11
課税2.164.6610.0621.7246.90

(注)黒数字=運用成績の差が10%未満,青数字=運用成績に10%以上の差が出る場合,赤数字=運用成績に30%以上の差が出る場合

運用成績の差が10%未満の場合を「大したことない差」と考えれば,年率2%だと50年経っても大差ありません

10%を判断基準にしたのは,最終的に差が10%程度であれば,生活にそれほど差が出ないレベルだと考えたためです。

さすがに年率10%で再投資を続けると早い段階で大きな差が早い段階で生まれます。ただ,年率10%をインデックス投資で得られる時代が長期に続くことはあり得ないでしょう。

3~5%でも,40年,50年運用という期間になると結構差が出てきますしかしながら,差が生じると言っても10~30%程度です。

上記の結果は積立投資ではなく,最初の年に一括投資した場合です。次に紹介する積立投資だと,さらに差は小さくなります

◆掲載図をブロガーのななしさんの記事でご紹介いただきました。配当課税を繰り延べるべきかどうかは,多くの投資家にとって気になる話題です(2019/05/01追記)。

読者質問|海外ETFの配当課税は、もしかして長期投資に向かないのでは?
読者様より、私がしているVYMとBNDの自分年金作りを気に入って下さり、ご質問をいただきました。記事にてご回答を致します。

積立投資の場合

以下が,投資総額を1としたとき,経過年数後に資産が何倍になるかを計算した表です。

年数 10年20年30年40年50年
2.00%繰延1.091.191.301.431.58
課税1.091.191.291.411.54
3.00%繰延1.141.311.511.752.06
課税1.141.291.471.691.94
4.00%繰延1.201.441.762.182.74
課税1.191.421.692.042.47
5.00%繰延1.261.592.062.743.72
課税1.251.551.942.473.18
10.00%繰延1.602.725.039.9420.68
課税1.562.474.086.9912.39

(注)黒数字=運用成績の差が10%未満,青数字=運用成績に10%以上の差が出る場合,赤数字=運用成績に30%以上の差が出る場合

積立投資では投入した資金の運用期間がだんだん短くなるため,資産の増加スピードは同額を最初に一括投資した場合に比べて小さいです。再投資における課税タイミングの影響も小さくなります。

たとえば平均年率リターン2~3%で運用すると,50年経っても大きな差がありません4%,5%で運用できた場合,40年以上で差が徐々に見えてくるといった程度です。

「課税」以外の要素で運用方針を決めたい

結論としては,再投資型の投資信託は配当金が出る個別株やETFよりも有利であるが,期待リターンが小さければ大差ないといったところに落ち着きます。

長期投資を前提とする場合でも,課税タイミングは投資信託を選ぶ強い理由にはならないということです。信託報酬や売買手数料,損失の繰越など,今回の計算では勘案していない条件のほうが結果に大きく影響するでしょう。

結局は,配当金を定期的に得るほうがよいかどうかという価値観,手軽さといった金銭面でない理由などを踏まえて意思決定して構わないということになります。むしろそういった考えのほうが大切な可能性が高いですね。

なまずん

私としては投資信託を主に使っていますが,雰囲気でETFを買ったりするので,「どちらでも大差ない」との結果にはある意味救われた……かもしれません(雰囲気で買っていいかどうかは本記事とは別の議論です)。

◆ある特定の条件の際にQQQを買うお話。

QQQはナスダック100に連動する値動きの激しいETF
この記事では米国籍ETFのQQQ(Invesco QQQ Trust Series 1;インベスコ QQQ 信託シリーズ1)を紹介します。QQQはレバレッジをかけないETFですが、...

コメント

  1. 見落としがちなこと より:

    インデックスファンドで10年だって安心して投資できるものがありますか。
    償還しないまでも、他にいいものが出てきてしまい本当に長期で任せられるものなどでてきませんでした。
    日本人の悪い癖で、海外ETFのようにどんと構えて10年でもそれ以上でもシンプルに継続できるものはない気がします。
    自社の新しい商品を次々にモデルチェンジのごとく出しては、乗り換えさせようとする愚かなゲームをさせようとしかけてきます。
    課税がどうのこうのよりも、存続率が99%なのか98%なのかの方が大きな問題です
    STAM eMaxis インデックスe たわら ニッセイ 楽天 slim ・・・
    以前のものを保持することがとても損をするようで安心できない仕組みです。
    楽天VTをVTと単純比較されている方がいましたが、楽天が99%以上の確率で10年、20年、30年と継続してくれるでしょうか。どう考えても99%以上ではありません。
    また、Slimシリーズもコスト以外の何らかの要因(低コスト化し過ぎによる継続の困難さなど)を孕んでいます。このコストを長期で継続すること自体が怪しいのです。

    • なまずん なまずん より:

      コメントに感謝申し上げます。本記事の論点とは異なりますが,確かに,国内の運用会社の多くがそういった継続性の問題点を抱えているとの指摘はもっともです。

  2. 【詐欺撲滅】ぼったくりを避ける正しい投資信託の選び方。 | だまさんブログ より:

    […] ばその配当金も運用ができるので、運用効率を高めることができます(検証記事についてはこちらやこちらやこちらを参照)。一般投資信託と上場投資信託の租税コストの差は目安として […]

  3. きなこ より:

    都度課税されるのと、最後に課税されるのは、毎年4%や5%の利益でシュミレーションすると確かにあまり変わらない

    ですが実際は+10%、-15%、+20%などを繰り返して平均5%になるかと思います。
    そうなると、プラスが出た時は課税、マイナスの時は課税無しとなり、実際は想定より多く課税されるかと思います。

    都度課税パターンでも損益通算を使えば4年に渡って相殺できますが、最後に課税されるパターンはその手間を無くせるという大きなメリットがあるのかなと思っています。

    • なまずん なまずん より:

      きなこさん、コメントをありがとうございます。ご指摘いただいたとおり、このシミュレーションはかなりの制約を置いています。
      今回の計算法は、都度課税の場合、いわば年初に全額購入し、年末に全額売却することを繰り返します。ですので、毎年の騰落率の受けてくるのは同じだと思います。
      例にあげていただいたような変動をしながら、最終的にプラス圏に終わる場合は、投資信託で繰り延べた場合よりもリターンの差が開くはずです(損益通算の出来次第でもありますが、リターンが落ちるので一般的には課税される総額は都度課税されるほうが少なくなります)。

      そもそも投資信託による運用と迷うような個人の場合は、ETFで運用した場合も「売却」が選択肢になることはほぼありません。
      したがってキャピタルゲインに対する課税はETF運用でも投信と同じように繰り延べられ、実質的に差になるのは「インカムゲインにかかる課税」の部分のみになってくると考えています。

      バイ&ホールドとインカムゲインの再投資を実践していくだけなら、実質的に繰り延べられるキャピタルゲインによる利益があるため、課税されるETF等でも、繰り延べる投信でも最終成績の差は記事に載せた表よりも相当に小さくなります。

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