個人型確定拠出年金(iDeCo)の利用に際しては,その仕組みから少し注意が必要です。
iDeCoは60歳まで引き出せないなどの特徴があり,一度始めると引き返すのはほぼ不可能です。この点についてもっと注意すべきという提言が多く見られるようになりました。これまで,iDeCoを非課税投資口座であるNISAやつみたてNISAと比較して,iDeCoの税制上の利点ばかりが強調されてきた傾向があり,扱いにくい特徴は過小評価されてきたところはあったかもしれません(私を含めて)。
しかし,iDeCoは癖があるものの利用価値のある仕組みです。そこで,今回はよく話題になる「iDeCoの資金拘束」について,私がどんな考え方で実践しているかをまとめます。
iDeCoは余裕資金の「ごく一部」に
投資は余裕資金の一部で行うのが原則ですが,iDeCoは「余裕資金のごく一部」で行うのが原則です。
iDeCoに拠出した資金は60歳まで使うことができません。自分の資産ではありながら手を付けられない状態を指して,「iDeCoは資金拘束が強い」とよく言われます。
iDeCoは非課税投資制度の仲間ではなく,年金制度
さて,iDeCoのこの特徴は国民年金や厚生年金保険の老齢年金と同じです。iDeCoは「個人型確定拠出年金」ですので,当然といえば当然です。
厚生年金保険料が現在の収入からまるごと控除され,老後の受取時に所得になるのと同様,iDeCoの掛金も現在の所得ではなく,受取時になって初めて所得となります。一定の年齢にならないとお金を受け取れないのも同じです。
iDeCoは資産を投資信託などで運用できるため,つみたてNISAなどの非課税投資口座と比較されることが多いものの,iDeCoを始めるかどうかは非課税投資としてではなく,年金の一つと考えなければなりません。iDeCoは,「運用益が非課税」というより,「所得を先送りし,課税される前に運用できる」ととらえたほうが個人的にはしっくりきます。
有名な言葉に,「現在の収入=現在の生活費+将来の生活費」というのがあります。将来の生活費の一部は老後費用です。「老後に2000万円必要」などと言われる中で,ある程度の資金は老後向けに送っておかなければならないことに異論はないでしょう。ここで,「将来の生活費」は老後資金だけを指すのではなく,退職より前に訪れる(かもしれない)さまざまな事象への予備資金でもあります。
ところが,iDeCoは現在の収入を老後に強制的に送ってしまいます。そこで,iDeCoを使うならば,「現在の収入=現在の生活費+老後を含む将来の生活費+老後に限った生活費」という考え方をしたほうがよいと思います。
- 現在の生活費
- 現金で保有する
- 老後を含む将来の生活費
- 現金とリスク資産(NISA,つみたてNISA,課税口座など)で保有する
- 老後に限った生活費
- iDeCoで保有する
「資産運用においてつみたてNISAを使うか,iDeCoを使うか」といった議論が展開されることもありますが,そもそも両者は資金の利用目的が異なります。柔軟性をもたせるべき部分はNISA等を活用すべきであり,今の所得とせずに収入を老後までワープさせるのがiDeCoです。若年層は余裕資金の置き場をiDeCoに偏らないほうが賢明です。
ただし,長い人生のなかでは想定外の時期に想定外の資金が必要になる可能性がもちろんあります。制度面では,iDeCoに課税を伴う中途脱退を可能にするなどの柔軟性をもたせてくれたらうれしいのにと思います。
私がiDeCoで保有しているのは余裕資金の6%くらい
参考までに私の場合,iDeCoに年間14万4000円を拠出しています(毎月1万2000円相当。確定給付企業年金があるため,現時点ではこれが拠出上限いっぱい)。このままのペースで続けると,35年間で拠出額として504万円になります。
資金の利用目的が限られるiDeCoだけで老後資金を準備するのは無理がありますので,拠出金額として500万円も出せば十分と思います(運用しなくても「老後資金2000万円」の25%に相当)。毎年の投資資金に占めるiDeCoの拠出金額の割合は10%未満です。現金も含めた余裕資金全体に占める割合は6%。人によって資金計画は異なると思いますが,感覚的な意見として,iDeCoへの拠出は余裕資金の2~3割にとどめておいたほうがよいのではないでしょうか。
Sumileさんのこのツイートが腑に落ちました。
よくまとめられていて分かりやすかったです
公的年金は「世代を越えての仕送り」と例えられる事が多いですから、iDeCoは「将来の自分への仕送り」ですね☺️ https://t.co/fF7PUhzFVs
— 菫(Sumile) (@sumile_nonisaku) October 6, 2019
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