先日,大学時代の同級生から相談を受けました。節税や資産運用に興味がある友人です。以前,ふるさと納税に関する相談にのったため,私に連絡が来ました。
ある20代の同級生からの相談
企業型確定拠出年金に加入してるんだ。でも,課税口座で普通に投信で運用するよりは,運用益が非課税だからiDeCoに入るメリットはあるという理解で合っているかな?
その理解はあってるよ!
そうですね。iDeCoは60歳まで引き出せないので,それ以前に使う見込みがあるお金はiDeCoで運用するのは厳しいでしょう。ただ,他にも制度があるよ! つみたてNISAや一般NISAは検討した?
投資へ興味があり,かなり自身で調べているのだと思います。iDeCoのメリット・デメリットを把握した上で,つみたてNISAや一般NISAも比較できるのは,知識がある証左です。
なお,私自身は2017年に一般NISAを開設し,2018年も一般NISAで運用しています。
第一に,つみたてNISA口座での運用を勧めたい
今回の質問者は投資信託を購入するつもりだそうです。それならば,まずはつみたてNISAでの運用を勧めます。
最大の理由は,外れがない商品を強制的に積立で購入できるから。さらに,年間40万円(=毎月3万3333円)という上限があるため,一括買いして心理的に眠れない夜を過ごす恐れが少ないです。
資産形成は長い道のりです。一発狙いにいくのではなく,「すぐれた投資対象を購入し,だんだんと資産を形成していく」積立投資の入り口につみたてNISAの仕組みは適しています。
NISA系の非課税口座は一度購入すると,売却しても買い付け可能額が復活しません。一般NISA・つみたてNISAで購入した資産はバイ&ホールドが前提です。
つみたてNISA対象商品は広く分散された低コストのインデックス投信が中心です。過去が再現されると仮定すれば,インデックス運用は20年後には運用益非課税の恩恵を受けられる可能性が高い点も,推奨する理由です。
この点は私が一般NISA口座を開設していて,周りにはつみたてNISAを薦める理由です。5年では相場の波によって大幅なマイナスに終わる可能性が比較的高いからです。
また,性格的に投資が合わない,ライフステージの変遷で資金が必要といったときに,比較的現金化しやすいのはつみたてNISAのメリットでしょう。
購入可能商品が少なく,積立投資しかできないのはデメリットととらえる人もいるかもしれません。個別株を買いたくなったら,翌年からNISA口座に変更すればよいのです。
第二に,iDeCo口座の開設を勧めたい
相談者のように,つみたてNISAだけでなく,iDeCoもぜひ活用を検討したい制度です。ただし,iDeCoは投資の観点より,年金の視座で考えるべき制度です。
現制度では60歳まで引き出すことができません。そのため,ライフイベントが数多く控える20代の段階で,余裕資金をあまり削りすぎるのは得策とは言えないでしょう。
確かに拠出額が所得から控除され,運用益が非課税です。しかし,払い出し時に全額に税金がかかります(年金または退職所得としての課税のため,金額によっては払い出し時も非課税)。
シンプルに運用益が非課税のつみたてNISA,一般NISAと比べて癖の強い制度ではないでしょうか。
しかし,それだけに潜在価値は高いです。払い出す時期や方法によっては,20代にとってはつみたてNISAの約2倍,40年前後の運用も可能です。また,所得税も繰り延べ効果だけでなく,退職・年金所得として得ることで,実際の支払額がより小さくなる可能性もあります(現在の税制が続く場合)。
そこで,ある程度余裕資金のある人にはiDeCoでの運用を私は勧める立場です。使わないと考える人なら別ですが,口座開設には1~2か月かかるので,迷っているなら「とりあえず開設」を勧める手もあるかもしれません。
さらに4つの情報を提供する
こういった一通りの説明に加えて,私は以下を情報提供として薦めます。
- 口座を開設する金融機関は低コストなネット証券を薦める
- 低コスト(信託報酬0.3%以下)な代表的商品への投資を勧める
- 数冊の書籍を薦める
- 解説者・実践録として参考になる個人ブログを紹介する
つみたてNISA,一般NISA,iDeCoのいずれかにかかわらず,金融機関を変更するのは面倒です。証券会社によって特色があるとはいえ,判断基準で外せないのはコストです。つみたてNISA,一般NISAの取引手数料が安く,iDeCoの管理コストがなるべく安いネット証券を勧めます。
私の場合,口座を開設しているSBI証券 ,楽天証券を主に勧めています(他の証券会社を否定するつもりはありません)。
また,商品選択の考え方も伝えるようにしています。私は高リターンを追求するよりも,まずは低コストを意識するほうがより重要と考えています。将来のリターンをコントロールするのは難しいものの,コストはコントロール可能だからです。
投資信託であればアクティブ運用に比べたインデックス運用の有利な点を説明します。具体的な商品としては,eMAXIS Slimシリーズとニッセイインデックスファンドシリーズを例として薦めるでしょう。
書籍は読みやすい本なら,『お金は寝かせて増やしなさい』(水瀬ケンイチ),『投資の大原則(第2版)』(バートン・マルキール,チャールズ・エリス)。
詳しい解説がほしいなら,『ウォール街のランダム・ウォーカー』(バートン・マルキール),『敗者のゲーム』(チャールズ・エリス),『株式投資の未来』(ジェレミー・シーゲル)などです。
ブログはおすすめはたくさんあります。例えば,水瀬ケンイチさん「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー」,NightWalkerさん「NightWalker’s Investment Blog」,りんりさん「バンガードS&P500ETF(VOO)に投資するりんりのブログ」など,私がよく目を通すブログを紹介するかもしれません。
結局は,相手の求めるものに応える姿勢
とはいえ,相談を受けたときは私の考えを伝えるよりも相手のニーズに応えるほうが重要です。
個別株投資をガンガン行いたいのか,手間をなるべくかけずそれなりのリターンをめざすのか,運用期間中に極力マイナスを防ぐことを重視するのか。
投資額の大きさと取れるリスクによっても変わってくるでしょう。
助言者の私としては思いもあるため,インデックス運用での積立投資を勧めがちです。しかし,投資法は無限にあります。
そして,助言者は評論家ではないのです。相談者が利点と欠点をバランスよく理解できているのであれば,投資を始める前でも一人の投資家として,意見は尊重すべきです。
投資を始め,続けていくのは私ではなく,相談者自身です。そういった意味では,証券会社や投資商品,本やブログを選ぶのも,最終的は相談者でしょう。相談を受けたときには選択の余地を残すよう,2つ以上の候補を伝えるようにしています。
もちろん,相談を受けた者として,大損失につながりそうな投資法にはストップを掛けなければなりません。そのときに,論理と体験談を語れることが大切だと考えています。
「投資を始めたころの自分」に対してはどう助言する?
編集の世界ではよく使われる手法があります。
それは,「昔の自分へ,今の自分からメッセージを送る」というものです。
投資を始めたときはいろいろ迷いませんでしたか?
相手の立場を考えるとともに,「昔の自分に対して,今の自分は何を伝えたいか?」と考えると,自分の投資の成功・失敗を踏まえた良い「語り」ができるかもしれません。
◆パパファーさんオフ会でこの話題を取り上げてもらいました。NISAでの運用を勧める人もいれば,つみたてNISAやiDeCoを薦める人もいました。理由もそれぞれで勉強になります。
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