投資信託の低コスト化に騒ぎ過ぎか? いいえ,もっと騒ぎましょう

190528投資信託の低コスト化に騒ぎ過ぎか? いいえ,もっと騒ぎましょう インデックス投資
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なまずんです。

令和時代を迎えて間もない5月,投信業界で一段と熱を帯びているのが信託報酬の引き下げ競争です。

iFreeシリーズ,楽天VTI,eMAXIS Slimシリーズ,<購入・換金手数料なし>シリーズなどの超低コストインデックスファンドが運用コストを切り下げると発表しました。

特に,ニッセイアセットマネジメントの「<購入・換金手数料なし>ニッセイ外国株式インデックスファンド」は,同クラスの個人投資家向けインデックスファンドの中で初めて信託報酬が0.1%を割り込みました。現在0.109%の信託報酬を0.0091%引き下げ,6月27日からは0.0999%となる見込みです。

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信託報酬引き下げによるリターン押し上げはごくわずか

この先,信託報酬はどこまで下がるでしょうか。一つ確かに言えるのは,ゼロを下回ってマイナスに突入することはあり得ません。ですから,信託報酬が低くなればなるほど,さらなる引き下げの余地は限られてきます。

実際に,切り下げ幅は絶対値で見ると徐々に縮小してきました。「<購入・換金手数料なし>ニッセイ外国株式インデックスファンド」の今回の信託報酬改定では,その数字はわずか0.0091%です。

なまずん
なまずん

0.0091%の差はとても小さいように見えます。では,新旧の信託報酬率で長期運用した場合,どれくらいリターンに差が出るのでしょうか?

差は40年間積立投資して0.2%程度

なまずん
なまずん

ということで,簡易的に計算してみました。

毎月の積立投資を行い,年率2%(=毎月,2%の1/12乗)で,40年間積立投資した場合を考えます。拠出額はいくらに設定しても結果は不変ですが,今回は毎月1万円拠出した場合を考えます。

計算結果はこちら。

信託報酬 10年後 20年後 30年後 40年後
0.109% 132.06万 291.31万 483.32万 714.84万
0.0999% 132.13万 291.59万 484.04万 716.30万

実際の世界では基準価額は常に上下動し,信託報酬以外のコストや税金(消費税や所得税など)がかかってきます。ですが,それらを考慮しなくても傾向を見るには十分でしょう。

結果として言えるのは2つです。

  • 信託報酬が低いほうが当然運用成果がよい
  • しかし,差は微々たるもの

生まれる差は40年運用した後で0.2%程度でした。

これらのファンドを投資対象としてみた場合,信託報酬のより低いほうを購入するのがもちろん賢い選択です。しかし,生活レベルで考えればどちらに投資してもまったく違いがないと言える水準です。

条件を変えてみた

先ほどの表を拡張してみます。

具体的には,「信託報酬0.5%」「信託報酬0.2%」「信託報酬0.1%」「信託報酬0.05%」の4つのファンドを用いて,年率2%と5%で運用した場合を概算しました。

年率2%

信託報酬 10年後 20年後 30年後 40年後
0.5% 129.41万 279.48万 453.48万 655.24万
0.2% 131.44万 288.50万 476.15万 700.38万
0.1% 132.13万 291.59万 484.03万 716.29万
0.05% 132.47万 293.15万 488.03万 724.41万

信託報酬0.1%で40年積立投資した場合を基準として運用成果は次のとおりです。

  • 信託報酬0.5%:91.5%
  • 信託報酬0.2%:97.8%
  • 信託報酬0.05%:101.1%

信託報酬0.5%では,0.1%に比べて8.5%もリターンが削られるのに対して,信託報酬が0.05%まで下がってもリターンはそれほど改善しません。

年率5%

信託報酬 10年後 20年後 30年後 40年後
0.5% 150.85万 384.56万 746.70万 1307.80万
0.2% 153.32万 398.10万 788.94万 1412.97万
0.1% 154.15万 402.75万 803.66万 1450.20万
0.09% 154.57万 405.09万 811.14万 1469.23万

信託報酬0.1%で40年積立投資した場合を基準として運用成果は次のとおりです。

  • 信託報酬0.5%:90.2%
  • 信託報酬0.2%:97.4%
  • 信託報酬0.05%:101.3%

年率2%で運用した場合と結果はほぼ同じでした。年率リターンが上がれば差が大きくなると予想して計算しましたが,実際にはそれほど変わらなそうです。

なまずん
なまずん

インデックスファンドの選び方を指南する記事では,必ず「低コスト」が条件に上がります。もちろん,信託報酬は低ければ低いほどよいですが,数字で考えれば信託報酬0.2%未満であれば許容範囲という考え方もできますね。

「信託報酬引き下げ」に騒ぎ過ぎか?

こういった数字をもとに考えると,十分に投資信託の低コスト化が進んだ今,信託報酬のわずかな引き下げに投信投資家が過剰反応しすぎているようにも見えます。「冷静な」投資家であればあるほど,分析をもとにそんな声も聞こえてきそうですね。

しかし,私はその受け取り方には否定的な立場です。投信ブロガーのケンズさんのある日のツイートに共感したので,紹介させていただきます。

もちろん,冷静な分析の通り,これ以上に信託報酬の低コスト化が進んでもリターンへの影響は小さなものです。

しかし,それは運用会社が今後もきちんとファンドを設計し,運用することが前提にあります。投資家にとってさらに優れた商品への絶えざる改良を続けさせるには,受益者である投資家の厳しい目が必要です。

インデックス投資はすなわち「パッシブ運用」ですが,投資信託の運営状況に関してはアクティブに注視しているというプレッシャーを運用会社や販売会社にかけていかなければなりません。

信託報酬一つを取っても,改善されたら適切な評価を与え,運営に問題があれば声を上げる。決して騒ぎ過ぎではないのです。

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