厚生年金の「改革」の方向性が謎に感じられる件

210912厚生年金の「改革」の方向性が謎に感じられる件 年金制度
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共同通信社が9月10日に報じた記事「国民年金の水準低下緩和へ 厚生年金から財源振り分け」という記事についていろいろなコメントが飛び交っています。多くは否定的だったり悲観的だったり,怒りだったりが見えてきます。

なかでも,この図と本文の一部が一人歩きしている印象が少しあります(図は記事より)。

厚生労働省が検討する年金改革のイメージ

少子高齢化に伴い,国民年金(基礎年金)の水準が将来大幅に減る見込みであることから、低下幅を抑える制度改革を検討する方針を明らかにした。厚労省は会社員が加入する厚生年金から財源を振り分けることで実現したい考え。

厚生年金は2階建ての構造です。1階は定額部分で「基礎年金」と呼ばれます。2階部分は報酬比例部分で,納めた保険料に応じて支給されます。

図の緑色の部分が「基礎年金」,黄色の部分が厚生年金の報酬比例部分ですね。

国民年金は厚生年金の定額部分だけ,すなわち緑色の部分だけからなる制度です。国民年金と厚生年金は別の年金制度ですが,運営にあたっては,この緑色の部分を共有して運用しています。

私も記事を見て,ちょっと過剰に反応してしまった節があったかもしれません。結局,どのように改革が進むかによって評価は異なるわけですからね。ちょっと反省。

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「高収入の」厚生年金の加入者とは?

記事では数字が全く出てこないので良い・悪いを評価できないのですが,気になる1文があります。

高収入の会社員は将来の年金水準が現行制度に比べ下がることになるため,経済界の反発も予想される

高収入の会社員の年金水準が下がることで経済界が反発する論理は意味不明です。しかしそれは置いておいて,ここにある「高収入の」とはどのくらいの水準を指すのでしょうか。

この水準がどの程度であるかが結局のところ重要であるように思います。逆に言うと,高収入でない層や厚生年金に加入していない層は,今回の「改革案」を歓迎すべきなのかもしれません。

多くの人の年金の水準はむしろ上がるのかもしれない?

ここからは憶測に憶測を重ねるような話ですが,基礎年金を充実させる必要性があることは,2020年12月の厚生労働省社会保障審議会(年金数理部会)の第86回でも専門家から意識されています。冒頭で書いたように,基礎年金と国民年金の運営は一体ですので,国民年金の充実とも言いかえられます。

詳しくは議事録や資料をご覧いただければと思いますが,基礎年金と厚生年金のマクロ経済スライドの調整期間を揃えることで,結果として基礎年金の割合を維持していくという試案が出ていました(図は第86回の資料1「厚生労働省追加提出資料」より。

マクロ経済スライド調整期間の一致

ゴチャゴチャしたグラフですが,2046年の年金水準を賃金別にあらわしています。要点は2つです。

  • 赤い実線と点線:実線は現行の方式のままとした場合,点線は基礎年金により多くを配分した場合
  • 右上の赤字「夫婦2人:賃金150万円」

要するに,賃金が月額150万円未満の世帯では,基礎年金を充実させることで厚生年金加入者の給付金額が上がる方向性が示されています。

分岐点の右側の人の受給金額があまり減らないことに対して,左側の人が大きく増えているのは,基礎年金の給付には50%の国庫負担があるからです。基礎年金が減ると国民全体への給付総額が減り,基礎年金を充実させると増えることになります(図は同じ資料から)。

基礎年金の充実による総給付費の維持

国庫負担分は税からの組み入れなので,結局は国民が広く負担することにはなりますが。

これは最終的な報告書に載っていないレビューの内容ですが,今後は方法の一つとして議論が進むこともあるでしょう。

なお,このように見ると国民年金加入者は50%の国庫負担を得ているのに対して,厚生年金は報酬比例部分があるために国庫からの組み入れが少ないという問題も見えてきますね。厚生年金加入者は,国民年金加入者よりも納付した保険料に対する給付が少ない状況です。これをさらに基礎年金,すなわち国民年金に回すというのは,きちんと説明しないと意味不明に見えてしまいます。

制度が変わることも念頭に置いて準備しておこう

見直しが必要であるとはいえ,年金は老後の生活の柱ですので,制度がコロコロ変わるのはよろしくありません。とくに,記事では厚生年金保険料を国民年金加入者に回すような表現になっているので,厚生年金の加入者にとっては簡単には理解しがたいです。

かと言って,生活に困るような人が少しでも減るような制度設計は重要です。また,現状のままだと国民全体における年金の総支給額が減ってしまう可能性もあるようです。

いったいこの改革は何をめざしているのだろうか……!?

今回の「改革」がどのようになるかは報道されている情報だけでは判断できません。そもそも,いまだに「年金を全くもらえないかもしれない」のように言う人もいるので,社会の将来不安が少しでも緩和されるような内容になると良いですね。

少なくとも,年金の所得代替率は減少するのは確実な未来です。現役世代並みの生活を送るには自分で備えておく必要性は高まっています。さらに年金が減るような場合には,個人としてもできる限り対策を取ることが必要になります。

  • 投資を早めに始めて,運用で備えておく
  • 少し長く働いて資金を作り,そのぶん年金受給を後ろ倒しする
  • 毎月の収入の足しになる副業を始める
  • 本業をいま以上に極める

などといった防衛策が必要になるかもしれません。

今回だけでなく,今後にわたって制度は少しずつ変わっていくものです。やりすぎる必要はありませんが,ギリギリではなく少し余裕をもって将来予測をしたほうがよさそうです。

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