著者の井戸美枝さんと、日経WOMAN編集部さんのご厚意によりご献本いただきました。さっそく拝読し、このレビューを書いています。
本書は投資家に向けた本というよりも、老後資金の確保に漠然と不安がある人に読んでもらいたい、そんな入門書です。各項目が2~4ページにまとまっていて、イメージしやすいイラストですらすら理解しながら読み進めることができると思います。
正直なところ、私はふだん、このような簡単そうな入門書をあまり読みません。情報量を削ると、その本の内容を踏まえて、自分がどのように実践していくかを判断するための知識が足りなくなってしまうことが多いからです。
ですが、そんな私の行動原則は、本書に良い意味で裏切られました。
夫婦でじっくり読ませていただきました!🐟
入門書だけれど、「考え方」までがしっかり提示されている良書
この本のよかったところを2つあげると、1つは、単に「答え」を提示する内容ではなかったことです。本書の「はじめに」には、次のような著者の考え方がありました(p.10)。
誰にでも当てはまる正解はなく、その人それぞれの生き方・意思にマッチした「特注品の答え」があるのだと思います。そしてその「特注品の答え」に出合うためには、何でも自分でやってみることが大事なのです。
読んでみると、一人ひとりが「答え」の背景にある考え方を知ったうえで、実践することを目的に書かれているのがわかります。
たとえば、本書では、老後に受け取る年金の月額を増やすための対策として、できるだけ長く厚生年金へ加入する方法があると書いてあります。そこでは、老後の生活費の予測と貯蓄の状況をみて、無理なく働くのでもよいとの考え方もあわせて提示されていました。
もう1つは、さまざまなライフスタイル別の老後資金対策についてまとまっていることです。共働き・専業主婦・パート・離婚後など、本書では女性を例にしていますが、性別を問わず重要なテーマです。
そのため、老後のお金について、“「答え」をください!”という書名の本書ではありますが、読後感は試験の要点とその対策をまとめた本に似ていて、いうなれば“老後のお金「傾向と対策」”のような感じでした。
どの年代でも役立つ内容だと思いますが、本書は人生を設計していく20代におすすめの一冊です。
本書の情報
著者
井戸美枝氏。ファイナンシャル・プランナー(CFP認定者)、社会保険労務士、経済エッセイスト。
社会保障審議会企業年金・個人年金部会委員、確定拠出年金の運用に関する専門委員会委員。講演多数で、『身近な人が元気なうちに話しておきたいお金のこと介護のこと』(東洋経済新報社)など複数の著書がある。(本書著者紹介をもとに作成)
発売日・版元
2020年4月27日、日経BP。
目次
CHAPTER 1 お金に困らない人生のルール
CHAPTER 2 私の年金、「答え」をください!
CHAPTER 3 「老後のお金」年代別TO DOリスト
CHAPTER 4 iDeCoとつみたてNISAで「じぶん年金」
CHAPTER 5 年金は増やせる!
CHAPTER 6 <<Special対談>>年金不安で「カモられない」ために知っておくべきこと
CHAPTER 1 から順に読んでいくことを想定した目次になっていますが、解説は各項目で完結しているので、興味のあるところから読んでもいいでしょう。
私はCHAPTER 6 から読みました(笑)
CHAPTER 6 は、2020年2月に『ちょっと気になる社会保障 V3』を刊行した権丈善一氏(慶應義塾大学教授)との対談です。『ちょっと気になる社会保障 V3』の超ダイジェストのような内容でした。
◆権丈氏の本は見た目と違って(?)学術的要素も多い一冊でした!
本書の本文のうち、4分の1以上の64ページがCHAPTER 2 の年金に関する解説でした。
老後資金を考えるうえで、終身で受け取れる年金は基盤となるものです。自力での貯蓄にはない、この「亡くなるまでずっと給付される」という年金の最大のメリットは本書でもしっかり解説されています。
目次上で、貯蓄や投資より前に年金が位置づけられているのは、そういった重要な背景があるからでしょう。
老後資金対策は年金を基盤に、貯蓄と投資を実践するのが王道
老後資金の準備を考えるときに、私たちは貯蓄や投資ばかりを思い起こしがちです。しかし、貯蓄や投資は、終身で受け取れる年金のうえに位置づけられるものであり、年金への正しい理解がその基礎になければ目的を見失いかねないと私は考えています。
CHAPTER 2・5・6が年金の話題なので、本書の約半分は老後のお金に関する解説なのです。そういった理由で、本書にはとても好感をもちました。
年金は給付額が一律に決まっているものではありません。とくに会社員などが加入する厚生年金は、加入期間と支払った保険料の金額によって給付額が変わってきます。受給開始時期の調整などによる公的年金の給付額の増やし方についてはややこしいところもあるため、約40ページを割いて解説しているCHAPTER 5も必見でした。
CHAPTER 3 では、投資以前の考え方として、年間支出額・年間貯蓄額・現在の資産額を把握していく家計改善の視点がありました。こういった現状把握のやり方についても、迷っている人には参考になりそうです。
CHAPTER 4 はiDeCoとつみたてNISAの話題です。本書では老後資金が目的なので、iDeCo推しでした。60歳まで引き出せないなど、使い勝手の悪さを指摘されるiDeCoですが、裏を返せば確実に老後資金を積み立てられる優れた手段ですね。私も積極的に活用しています。
こういった考え方の順序と内容は、まさに老後資金対策の王道だと私は思います。
「老後」は未来でも、「老後資金対策」は今からできる
老後資金はまとまった金額になるため、対策には長期的な計画が必要です。また、iDeCoのような制度を使う場合は、今の拠出枠は今使わないと無駄になってしまいます。先送りにすれば、それだけ自分の将来の資金の準備が難しくなっていくでしょう。
「老後」ははるか未来でも、「老後資金対策」は未来のことではありません。
本書は、人生のステージごとにどのような考え方が必要かをわかりやすく解説しています。読み終えたあとも、ときどき自分の実践を振り返るために本棚に置いておきたい教本でした。
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