米国株の人気を背景に,次々と信託報酬の安い米国株式インデックスファンドが販売されるようになりました。
この記事ではその一覧と,なかでも人気の高い「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」,「SBI・V・S&P500インデックス・ファンド」,「楽天・全米株式インデックス・ファンド」「SBI・V・全米株式インデックス・ファンド」(それぞれ以下,eMAXIS Slim米国株式,SBI・V・S&P500,楽天VTI,SBI・V・VTI)の特徴を比較します。
現時点の結論としては,私としては,信託報酬がより低いファンドを優先して検討する方法がおすすめです。
信託報酬以外の要因もあるので,本来的には市場リターンから総コストを引いた後のリターンの推移で判断すべきであると考えています。
しかし,どのファンドもまだ設定から日が浅いために,明らかに運用成果が見えてはきません。そこで,最大のコスト要因と考えられる信託報酬に注目して選んではいかがでしょうか。
低コストな米国株式インデックスファンドの一覧
信託報酬が税抜0.3%を下回る低コストな米国株式インデックスファンドを設定順に並べました。信託報酬や純資産総額は2021年5月28日の数字です。
2017年8月に「iFree S&P500インデックス」が出てから,続々と新たなファンドが販売されてきました。信託報酬と純資産総額は記事更新時点の数値で,ETFを購入するファンドは投資対象の経費率を加算した実質的な値です。
設定月 | ファンド名 | 信託報酬(税抜) | 純資産総額(百万円) | 運用会社 |
2017年8月 | iFree S&P500インデックス | 0.225% | 26,436 | 大和アセットマネジメント |
2017年9月 | 楽天・全米株式インデックス・ファンド | 0.150% | 273,813 | 楽天投信投資顧問 |
2018年7月 | eMAXIS Slim米国株式(S&P500) | 0.088%以内 | 437,756 | 三菱UFJ国際投信 |
2019年9月 | SBI・V・S&P500インデックス・ファンド | 0.088% | 212,026 | SBIアセットマネジメント |
2020年2月 | NZAM・ベータ S&P500 | 0.240% | 61 | 農林中金全共連アセットマネジメント |
2020年3月 | つみたて米国株式(S&P500) | 0.200% | 400 | 三菱UFJ国際投信 |
2020年7月 | Smart-i S&P500 | 0.220% | 1,003 | りそなアセットマネジメント |
2021年6月(予定) | SBI・V・全米株式インデックス・ファンド | 0.088% | 設定前 | SBIアセットマネジメント |
売れているファンドと売れていないファンドには,1つの大きな差があります。それは「信託報酬の安さ」です。
現在は税抜ではeMAXIS Slim米国株式が最も安く,税込では原資産のETF経費率に消費税がかからない分,SBI・V・S&P500が最安になっています。
楽天VTIは当初は最安の座にありましたが,SBI・V・S&P500の登場以降は資金流入のペースが落ちてしまいました。それでも,ほかのファンドがS&P500をベンチマークとするなかで,CRSP USトータル・マーケット・インデックスをベンチマークとする楽天VTIは独自の立場を持っているだけに,ここまで資金流入が続いています。
eMAXIS SlimシリーズやSBI・Vシリーズは信託報酬を同種ファンドのなかで最安水準にすることを理念に掲げています。これも信託報酬に関連して,支持を集める大きな理由でしょう。
米国株式インデックスファンドを買うならこの4つから
さて,インデックスファンドを選ぶ際に注目しなければならないのは次の2つです。
- コスト(信託報酬や実質コスト)が低いこと
- 純資産総額の規模と増え方が大きいこと
これらの視点で米国株式インデックスファンドを見ると,購入に値すると考えられるファンドは,eMAXIS Slim米国株式,SBI・V・S&P500,楽天VTIです。楽天VTIは信託報酬が最安ではないものの,十分に安い水準でしょう。
コストについては低ければ低いほど,最終的な運用成績が高まります。インデックスファンドはどの運用会社のファンドであっても,市場から得られるリターンは同じです。であれば,運用会社に支払う費用が少ないほうが自分の資産の手残りは多くなるからです。
純資産総額とその増え方は,長期的に運用できるかどうかの目安になります。規模が小さいファンドや資金が流出しているファンドは,将来的に運用を終了してしまうかもしれません。償還されたときに利益が出ていればその段階で税金がかかってしまいますし,株価が下がっていれば損が出てしまいます。
新しいSBI・V・VTIもかなり有力な選択肢
ただし,2つ目の純資産総額の基準には達していませんが,2021年6月29日から運用が始まるSBI・V・VTIは有力な選択肢です。
なんと言っても,信託報酬が安いこと。詳しくは次で説明しますが,同じ運用方法をとる楽天VTIよりも信託報酬が40%以上も安いです。
おそらく,最初こそ純資産総額が小さいものの,すぐに規模が大きくなるでしょう。
ただし,ファンドの規模が小さいうちはコスト負担が高くなる傾向があります。SBI・V・S&P500の運用を見る限りでは心配はすくないですが,100億円程度の大きさになるまでは購入を見送っておくのもありです。
eMAXIS Slim米国株式,SBI・V・S&P500,楽天VTI,SBI・V・VTIの特徴
ここからは,この4つのファンドについて,その特徴をみていきます。
eMAXIS Slim米国株式
eMAXIS Slim米国株式は,米国を代表する500社の株価指数であるS&P500に連動する運用成績をめざします。現在,S&P500に連動する投資信託のうち,信託報酬は税込で2番目に安く,純資産総額は最も多いファンドです。
信託報酬については,すばらしい点が2つあります。
- 純資産総額の増加に応じて少しずつ信託報酬が下がる
- 他社のファンドが信託報酬を下げた場合,対抗して信託報酬を切り下げる
信託報酬が純資産総額に応じて少しずつ低減されていく仕組みは次のようになっています。
500億円までの部分 | 500億~1000億円の部分 | 1000億円以上の部分 | |
信託報酬 | 0.0880% | 0.0875% | 0.0870% |
更新時点では純資産総額が3960億円まで増えています。そのため,信託報酬は税抜では0.08717%,税込では0.09589%です。
また,eMAXIS Slimシリーズは「業界最低水準の運用コストをめざす」と掲げています。この言葉の通り,類似のファンドの信託報酬が下がると,即座に対抗して信託報酬を切り下げてきました。現在の信託報酬が税抜0.0880%となっているのも,後から設定されたSBI・V・S&P500に対抗した結果です。
なお,運用は米国のETFを購入する他の2つと異なり,自社のマザーファンドから米国の個別株式に投資しています。マザーファンドを維持するのは労力がかかるため,ここに「本気度」を見出すような意見もあります。
eMAXIS Slimシリーズの実績があり,かつ純資産総額の伸び方が最も大きいという安心感があるため,総合的に評価の高いファンドです。
SBI・V・S&P500(旧:SBI・バンガード・S&P500)
SBI・V・S&P500は,米国バンガード社のETFであるVOO(バンガード・S&P500 ETF)を購入する仕組みで運用されるインデックスファンドです。
S&P500に連動する投資信託のうち,税込の信託報酬では最安で,純資産総額は2番手となっています。
このファンドもeMAXIS Slim米国株式と同様に,同業他社を意識して低コストをめざす姿勢を鮮明にしています。
2021年5月28日に,SBIアセットマネジメントは「SBI・V」を冠するファンドをシリーズ化すると発表しました。そのなかでは,「『顧客中心主義』の経営理念のもと、『業界最低水準の手数料で業界最高水準のサービス』を提供する」と表明されています。
eMAXIS Slim米国株式のほうが税抜では信託報酬が安くなりますが,税込ではSBI・V・S&P500が最も低コストになります。その理由は前述したとおり,米国籍ETFの経費率には消費税がかからないからです。
信託報酬(税抜) | 信託報酬(税込) | ETFの経費率 | 合計 | |
SBI・バンガード・S&P500 | 0.05800% | 0.06380% | 0.03% | 0.09380% |
eMAXIS Slim米国株式 | 0.08717% | 0.09589% | 0% | 0.09589% |
純資産総額では,下図のように先に設定されたeMAXIS Slim米国株式と楽天VTIを猛追しています(グラフはSBI・バンガード・S&P500が2000億円に到達した2021年5月時点)。
純資産総額の増加ペースはeMAXIS Slim米国株式に及びませんが,2000億円を突破するまでの期間はeMAXIS Slim米国株式や楽天VTIを上回っています。
また,原資産であるVOOは世界的にも定評のあるETFですので,これを買っているのはSBI・バンガード・S&P500の大きな特徴です。
以上を踏まえると,SBI・バンガード・S&P500は,少しでも低コストであることを追求したい人や,間接的にVOOを保有したい人に適しています。
◆2021年6月15日までは,本ファンドの名称は「SBI・バンガード・S&P500インデックス・ファンド」にでした。バンガード社の日本法人の撤退によって改称が必要になったようです。
楽天VTI
楽天VTIも米国バンガード社のETFを買い付けて運用するインデックスファンドです。買い付けるファンドはVTI(バンガード・トータル・ストック・マーケットETF)です。S&P500とほぼ同じような値動きとなりますが,500社に入らない小型株を含むことが特徴です。
この小型株の成長の恩恵を受けたいと考えてVTIを選ぶ人もいます。
米国株式インデックスファンド全体でみれば,信託報酬では3番目に安く,純資産総額は2番目に多いファンドです。VTIを購入するファンドとしては唯一でしたが,2021年6月にSBI・V・VTIが強力なライバルとして登場しました。
信託報酬は税込で0.162%です。税抜の信託報酬が0.120%で,さらに原資産のETFの経費率0.03%がかかります。設定当時は最安でしたが,残念ながら現在は後れをとっています。
SBI・V・VTIの登場で,「VTIに投資できるインデックスファンドならこの1本」という立場もなくなってしまいました。
SBI・V・VTIが購入できるのはSBI証券だけと発表されており,その点に多少の優位性はあります。しかし,ライバルとの比較の中で,信託報酬・純資産総額・商品性の魅力が下がってきてしまっているのは事実です。
積み立て中の人も多い投資信託ですので,より低コストをめざしてほしいですね。
◆なお,VTIはトータルリターンでみればS&P500とほとんど差がありません。
SBI・V・VTI
2021年6月に設定されるSBI・V・VTIはバンガード社のETFのVTIを購入するインデックスファンドです。運用方法は楽天VTIとまったく同じです。
一方で,信託報酬には差があります。楽天VTIよりも40%も安い水準です。
信託報酬(税抜) | 信託報酬(税込) | |
SBI・V・VTI | 0.0880% | 0.0938% |
楽天VTI | 0.1500% | 0.1620% |
運用方法が同じであれば,信託報酬が安いSBI・V・VTIのほうが,投資家が得るリターンが大きくなる可能性が高いです。「信託報酬が安い」というだけで,楽天VTIからSBI・V・VTIに投資先を変更する十分な根拠になります。
もちろん,信託報酬以外にもかかるコストがありますから,必ずSBI・V・VTIのほうが高いリターンをもらたすとは言い切れません。また,すでに書いたとおり,運用初期は純資産総額が小さく,コスト負担が大きくなることもあるので,投資するかどうかは運用結果がある程度出てから判断するのでも遅くないでしょう。
なお,楽天VTIからこのファンドに乗り換えるときは,売却しての乗り換えではなく,新たに積み立てる分の設定を変えるだけにとどめましょう。
その理由は,売却するとNISA・つみたてNISAの非課税枠を無駄にしてしまったり,課税口座で利益が出ていれば課税されてしまったりするからです。信託報酬の差よりもそちらの影響のほうが大きくなる可能性が高いです。すでに持っているぶんはそのまま持ち続けましょう。
長期的には運用面で差が出るかどうかに注目
このように,どのファンドも買いたい理由は十分にあります。新規設定のSBI・V・VTIの評価はこれからですが,投資信託をウォッチしている投信ブロガーによる「投信ブロガーが選ぶ! Fund of the Year」(FOY)で,ほかの3本は揃って受賞歴があります。
FOY2017 | FOY2018 | FOY2019 | |
eMAXIS Slim米国株式 | (未販売) | 第8位 | 第2位 |
SBI・V・S&P500 | (未販売) | (未販売) | 第10位 |
楽天VTI | 第3位 | 第4位 | 第6位 |
SBI・V・VTI | (未販売) | (未販売) | (未販売) |
また,eMAXIS Slim米国株式,SBI・V・S&P500,楽天VTIは資金をしっかり集めているところが,多くの人に評価されている証です。現時点の売れ行きやスペックを見れば,いずれも安心して購入できるファンドと言えます。
そして,SBI・V・VTIは米国株式インデックスファンドの競争を刺激する,大いに期待できるファンドと言えるでしょう。
したがって,特徴のうちの何を重視するかで,買うべき商品を判断していきましょう。
今後はしっかりインデックスに連動する堅実な運用をしているかどうかや,投資家に対する姿勢などにも注目していきたいですね。
◆先進国株式や全世界株式などの比較もどうぞ!
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